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「アルスエレクトロニカ・フェスティバル2021」

「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」は、メディアアートを中心にしたオーストリアのリンツで開催される世界最大級の規模の芸術・先端技術・文化の祭典です。今年度は「A New Digital Deal」をテーマに9月8日から12日まで開催されました。

行った事もない私が説明するのもなんですが、個人的な印象を書きたいと思います。

今年の傾向として、アーティスト個人の内的な表現というよりも研究団体や市民団体が社会課題の研究を芸術的に表現することで啓蒙するといった目的の作品が多い様です。こういった社会課題に関する問題を扱った作品は今までも多かったのですが、一歩進んで問題提議だけでなく具体的に解決する事までを目的としたプロジェクトや作品が増えてきている様です。

・「branch」
デジタルヒューマニティーの賞を受賞した作品「branch」というオンラインマガジンは「誰にとっても持続可能で公正なインターネット」がテーマで性別、人種、階級、能力などの様々な視点から環境保護と持続可能性のためのアクションをまとめたマガジンです。

・「S+T+ARTS oceans in Transformation」
海に映される海洋問題をテーマにした作品。気候変動によってもたらされる課題における科学、建築、芸術の統合に焦点を当てています。

・「Fab Lab Barcerona」
バルセロナのサテライト「Fab Lab Barcerona」はフードロス、医療、ジェンダーギャップなどをテーマに持続可能な社会の実現を目指しています。

・「Chosho Hakkei in Rittor Base – Live Performance ver」
東京のサテライトである「Garden TOKYO」では今年の文化庁メディア芸術祭のevala氏の受賞作品も上映されます。※evala氏の作品については前回のブログでもご紹介しました。

・「Apotome」
音楽の部門で冨田勲さんの賞も設立され「Apotome」 という音楽ソフトが受賞しました。西洋の音楽以外のチューニングを使ったオンラインで共有して音楽制作できるツールみたいです。

アートの歴史からメディアアートに至る歴史をざっくりと振り返ると、、
宗教(宗教画)⇒権力と表現技術の革新(ルネサンス)⇒内省(抽象画や現代アート)⇒テクノロジーと社会課題(メディアアートの現状)という変遷を経てきた様に感じます。アートは時代背景をダイレクトに反映します。今、メディアアートやデジタルアートの目線は持続可能性に向けた具体的なアクションに向いていると感じます。

鑑賞者の感覚や自由なモノの見方や感じ方を尊重するというよりは社会課題や課題解決のための具体的なメッセージとアクションが背景にあり、社会啓蒙的な要素が強くなっています。その手法は社会公的デザインにアートの手法を取り入れたような表現になっているようにも感じます。ここで言う社会の公的デザインは、結果的に具体的な社会変革にアプローチするものであって、そこには課題解決という「目的」がある。これはデザインの領域とも言えますが、初期衝動はアーティスト個人の内発的動機で、現代社会の抱える様々な課題に対する意識、それが作品制作に至る過程における表現はアートであることは間違い無いでしょう。この社会課題の具体的解決方法が起業という形をとればビジネスイノベーションで、いわゆるビジネス文脈におけるアート思考となります。

これはアートとテクノロジーが融合していく中で必然的な流れではないでしょうか。テクノロジーが身体性の拡張からAIという人間の脳や内面性の拡張に進化する中でサイエンスとテクノロジーとアートはさらに融合していくでしょう。まさにこの文脈や過程を提案しているのがアルスエレクトロニカの様に思えます。

これをアート、またはアート思考の拡大解釈と見るか、またはアートを人間の本質の探究として包摂的に捉えるかの問題だと思います。個人的にはテクノロジー×社会課題というテーマに対してアート思考×デザイン思考×ロジカル思考を統合したクリエイティブ・マネジメントという視点から生まれたアート作品ではないかと思います。

手前味噌ですが、そういう意味ではチームラボと作ったRESAS(地域経済分析システム)は、制作過程においてJAZZの即興性やアジャイル開発、技術者中心でなくアーティスト中心で作ったという意味でクリエイティブ・マネジメントが重要で、膨大なデータを可視化する事で地域活性化という社会課題の解決を目的としたオンライン作品を作る様に制作したという意味ではアルスエレクトロニカの視点でアート作品に近いものだったのではないかと、今になって思います。


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