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31歳、普通に泣いた

月曜日、朝からソワソワして、その時を待ちわびていた。

19時。19時に好きな芸人のイベント券付きDVDの予約が開始するのだ。
その枠は狭く、先着100名。
5分前にアラームをかけたものの、30分前には既にサイトにログインし、いつでもアクセスできるようにスタンバっていた。

それが良くなかったのだ。

19時になってもうまくページがリロードできず、商品ページに商品が現れない。なぜだ?どこに商品が現れるんだ?どうすればいいんだ?これか?え?なに?どれ?これ??


結局、なんだかよくわからない別商品を購入してしまい(本当になんでそんなことになった)、そうこうしている間に時間が経過し、正しい商品ページが現れたころには、「売り切れ」と表示されていた。



どおおおおしてなんだよおおおおおおおおおおおおおおお!

と私の内なる藤原竜也が叫び、苦しみながらもがいた。実際に、のたうち回ってみたりもした。

リビングで藤原竜也をしている31歳の娘に驚いた母親の、「妙なところに出くわしてしまった」というドラマじみた発言も気にならないほどに、私は苦しみ、叫んだ。なぜなら、藤原竜也は人の目を気にして叫ぶのをやめたりはしないからだ。


ひとしきり藤原竜也をしたのち、自室にもどり、改めてイベントに行けない悔しさを噛み締めて泣いた。31歳、普通に泣くんかい、と内なる相方が突っ込んでくれた。この年で、こんな理由で泣けることに、自分自身でも驚きを感じていた。

15秒ほどガチ泣きしたあと、一旦無の時間を過ごした。そして突然冷静になり、「飯も行ったこともない相手に、こんなにも感情を左右される必要はないのでは?」と思いはじめた。そもそも、自分の行動ではどうにもならない不確定要素によって、機嫌を左右されるような状態は、健全とは言えない。こんなことで悔しい思いをするなんて、もはやメンヘラである。
別に、私が参加券を取れなかったことで、誰かがイベントに参加できるのだから、いいではないか。これはさすがに、私の好き度がキモすぎた、とはっきりと自覚し、あんなことで泣いた自分が、恥ずかしくさえ思った。不幸なファン思考はもうしない。不幸な恋愛もしない。これまでの異常だった好き度を、一段階下げることにした。



そう思うと、なんだかとても楽になった。イベントに参加できないくらい、どうってことないじゃないか。これまで通り、YouTubeやラジオを聴いて、楽しませていただこう。
私はいままでになくスッキリとした気持ちで、ウェブページを閉じようとした。



あれ?

そこにはなぜか、イベント参加券の予約が完了しているとの表示がされていたのだ。


うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

先ほどまで、自分の中に藤原竜也が発生したことも忘れ、私は勝利の雄叫びを上げた。誰に向けるでもなくたくさんの感謝を空に放ち、自室から飛び出してポリネシアンダンスなどを踊った。リビングでポリネシアンダンスをする31歳の娘に驚いた母親の「また妙なところに出くわしてしまった」という五右衛門じみた発言も気にならないほどに、世界は愛で溢れていた。
この感謝が世界中の藤原竜也に届きますように。薄紅色の君の夢も終わりますように。


私はポリネシアンダンスを終えて、自室に戻った。今日は早く寝よう。
私の内なる相方が、おい情緒どうなってんだよ、と突っ込んでくれた。


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