【ダンジョン潜り】 (2-9) ~森の狩人~
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「呪われた場所と聞くけど、町はずいぶんと小ぎれいだね」
女は淡々とそうつぶやいて、拭き布で体をぬぐうと給仕の娘に礼を言った。
彼女は我々を含め酒場にたむろする人々をぐるっと見回すと、床を入念に踏みしめるかのような足取りでカウンターへ向かった。
クロークや手袋を物干し棒に掛け、親父に酒をもらう。
彼女が座る場所を決めるより早く、ガイオがすかさず声をかけた。
「おうい、こちらへどうだい!」
女はコツコツと重い靴の足音を響かせて、こちらへ歩いてくる。
「3人で何かよからぬ相談かい?」
「よからぬと言えば、そうかも知れんな。貴殿もダンジョン潜りだろう? ちょうど仲間を募っているところでな。俺は、ガイオだ。」
ガイオが笑いかける。
私とリドレイも名乗った。
女は勧められるまま椅子にどっかりと腰掛け、答えた。
「カリス。」
そしてガイオを指差して、つづけた。
「生憎だけど私はダンジョンとは関係ない。ひょんなことから巡り巡ってセレッパ港に流れ着いた身だよ。帰る当てもなくなったから山を越えてうろうろしてる。」
「そうだったか。それは失礼した。しかし、その風体から察するに堅気の身ではないと見受けたが?」
ガイオの問いに、カリスは口元を歪めて笑みを作った。
「まあそうだね。詳しくは言わないけど、大川を越えて、夜襲にあぶり出されて、お姫様を連れて、逃げてきた。そんなところだ。色々あったよ。仕事は失敗したし、行く場所もない。」
「夜襲?」
「イベローン人のさ。狼公イオアネスが追われた時、私もそこにいた。」
「追われたって?」
「知らないのか、呆れたね。イオアネス公は消息不明、息子のゲオルギイが自分の城にこもって兵を集めてる。」
「そうだったか。ここらの皆は人間同士の諍いにあまり興味が無いのでな。」
ガイオはそれ以上詮索しようとはせず、単刀直入に切り出した。
「ところでさっきも言ったが、俺たちはダンジョン潜りで、仲間を探してる。俺もそれなりに人を見る目はあると自負しているが、貴殿はなかなかに腕が立ちそうだ。徒党に迎えたいのだ。」
カリスは私たち3人の顔をいぶかしげにじっくり見渡して、無言で酒をあおり、答えた。
「いいよ。荒事は苦手じゃない。金も要るしね。こんなところでダンジョン潜りに堕ちるとは思わなかったけど。」
ガイオが満面の笑みを作った。
「ありがたい! 決まりだ! さて、ダンジョンについてはおいおい説明するとして、その使い込まれた大弓、貴殿は弓兵だな?」
「ハッ! 弓兵ね。」
カリスは笑い飛ばした。
「弓を射るだけが能じゃない。私は "森の狩人" だよ。」
それを聞いて、リドレイがため息をついた。
「バンクの兵士か。一筋縄じゃいかないやつらだ。」
「そっちはティラの神官だね。お互い様だよ。」
カリスが言い返す。
その後、4人は雨の勢いが弱まるまで飲みつづけた。
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こうして我ら徒党に新たな仲間が加わり、次のダンジョン探索は間近となってきたのだ。
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金くれ