流れ星に願いを

母は、テレビを観ながら言った。
「流れ星、きれいね。一度見てみたいわ。流れているあいだに願い事を言えると叶うとか本当かな」

数年ぶりか。
母は、テレビで流れ星を観るといつも同じことを言う。
「流れ星、観たことある？」
これもいつもの質問だった。

「あるよ。五回くらい」
「へぇ、すごいね。わたしもいつか見てみたいわ」

自分は宇宙、星が多少なりとも興味があり、夜景を見るのも好きだったので、夜空を見ていて、そのときに何度か。

「流れ星を見たいなら、ずっと、夜空を眺めていればいいよ」
「う～ん。そんなの無理」
苦笑して、いつもの会話は終わる。
母は、宇宙、星、夜景などにまったく興味はなく、為す術もない。
夜空を見ないのだから、このままでは一生、見ることはないだろう。
見れたとしたら、すごい偶然であり、奇跡だ。

そうは言ってもなんとかしたい。
調べてみると、地球には定期的に○○流星群が来て、一時間に二つ以上の割合で流れることもある。
その時間帯なら、三十分くらい眺めていれば、理論上、可能ではある。

もっと調べてみると、あと一週間もすれば、ある流星群が来て、流れ星を見られるかもしれない。
そのことを話してみると、「ん～、どうしようかな。考えとく」
自分には、わかっている。
母は、こう答えたとき、必ず、実行しない。

いつもの「いつか見てみたい」の発言は何なのか？
首をひねってしまう。
それでは、宝くじを買っていないのに、宝くじで一等が当選して大金が手に入れば良いなぁ。と同じではないか。

また、自分にはわかっている。
母は、流れ星を見ることが本気で真剣に見たいと思っているわけではないと。ひとつの淡い願望であり、そうなったら良いなぁ、というくらいなのだ。

人は、様々な願望がある。
願望は努力しなければ、手に入らないことは多い。
努力をしても、無駄になることも多いし、意味がないこともある。
労力がかかるだけのこともあるのだ。

そうはいっても、努力をしないことには何も始まらない。
無駄や意味のないことから、何かの意義を見つけることはできる。

流れ星が流れているあいだに、願い事を言えれば、叶うのか？
叶うのだろう、言えれば。
ただ、言えるのはそうとう難しい。無理だ。

無理と諦めてしまって良いのだろうか。
何か方法はあるのではないか。

……思うに「流れ星に願い」は、そういう意味があるのではないか。
願い事を言える方法を考える。流れ星を見る努力やチャンスを待つ。

母をなんとか説得して、一緒に夜空を眺めたいな。
そのときに流れ星が現われたら、最高だろうな。
母は、願いを言えるだろうか。

（終）