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記憶の改ざん

友達に竜司という男がいる。
一見、強面だが、気が優しく、おとなしい。
そいつと高校卒業以来、3年ぶりに同窓会で会った。

竜司は卒業して、ある企業に就職して、半年で退職していた。
理由が「いじめ」だったからである。驚いた。
高校のとき、いじめられたようなことはなかったし、
強面であり、性格的にも、いじめとは無縁を思っていたからだ。
詳しくは聞けなかった。本人が嫌がったので。
それでも、同窓会で周りを含めて、他の話題もあり、
そのときのことは深く印象に残りながらも皆で盛り上がった。

それから、7年後くらいか。
定期的に同窓会はあり、竜司もいた。
話の流れであり、何気なくである。深い意味はなかった。
「竜司、高校卒業して就職したけど、いじめで半年で会社を辞めたんだよな」
「は? 確かに半年で辞めたけど、いじめなんかではなく、他にしたいことが見つかったから辞めたんだ」

すごく驚いた。
7年前に、竜司から「いじめ」で会社を辞めたと聞いて、意外なことで印象深く記憶として残っているのだ。
本人は、「いじめ」ではないと言う。
自分としては、「いじめ」だったから、よく覚えていいる。
どちらが正解なのか。
そのときは、適当なことを言って、別の話題になった。
いじめで会社を辞めるのは、本人が胸を張って言えることではないし、
他人が当時のそんなことをぶり返すのも良くなく、反省をした。

家に帰っても、そのことは頭に残っている。
きっと、竜司にとって、「いじめで会社を辞めた」のは、
黒歴史であり、自分の記憶の中で、抹消したのだと思った。

真実を知りたい自分がいて、古くからの日記を久しぶりに取り出す。
残念ながら、竜司のいじめで会社を辞めたことついて、どこにも書いていなかった。
ついでに日記をあっちこっち、読み直してみる。

言動の過去の記憶として、今、頭にある。
日記を読み直してみると、全然、違うことが多々、あるのだ!
記憶の改ざんである。
都合の良いように改ざんされている。愕然とした。

竜司が記憶を改ざんしたと言っているのではない。
いじめで会社を辞めたを思っているのも、自分が改ざんした可能性も大いにあるのだ。
半年で会社を辞めたのは事実だが、真相はわからない。

真相を知りたいですか?
……。
竜司の半年で辞めた会社は、そこそこの企業であり、
今の自分の人脈を使って、当時のことを知ることができました。
人伝もあり、時間はかかりましたが。

初めに間接的であり、直接的な意図はなかったと言い訳はしておきます。
竜司が会社を辞めたことは、自分(デトロ)が関係していた。
当時、自分が働いていた会社との関係性とも言いましょうか。
深くは言えない。書けない。
だから、日記でも書いてなかったと、わかりました。
黒歴史のような、嫌すぎる出来事は、日記でも書きたくないものです。

記憶の改ざんは、恐ろし過ぎる。

(終)

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