見出し画像

「モルヒネ」を読んで

ある方に勧められ。今しかないよ…という時間があったので読む事にした。とても良いタイミングだった。

読了後、刺されることを期待して。

主人公の真紀は4人家族。母は自殺。早紀(姉)は学童期に父の暴力で死亡。学童期の出来事が大きなショックすぎたのか思い出しても平気。死んだ人間は二度と死なないから。真紀は医師になった。死ぬために医学を学んだ。大人になり医師になった真紀は、現在同じ医師の長瀬と婚約中。そこに大学時代に交際していたヒデ(ピアニスト)が二人の前に現れる。グリオーマ 終末期として。大学時代には死にたいと考えていた真紀。現在死にたいと考えているヒデ。各々の願望の時期のズレがあり「死」への協力もできず。

ただ、昔の男が病を患って現れてから大学時代の別れた時の事を思い出す。別れたと言っても勝手にヒデがオランダに行ってしまったから未練はある。どこかで偶然会うんじゃないか、ヒデを連想させるものを発見して反応したりと密かな期待を緩く保ち、その内小さくなり消失していく。

ヒデと七年ぶりに会った後、ヒデに会うことなく過ごしていたが、心のどこかで安定していた日常が不安定となっていく。それに対して婚約者の長瀬は気づいていながらも静観。

それから、ホスピスに入所した問題児(ヒデ)を宥める役として真紀は面会にいった。病気の事、生と死の考え方、男の話をしながら、時々「男の趣味から花の好みまで、俺の知らぬ間に何もかもを総入れ替えしてしまった・・・」「まったく、三十過ぎてるくせに、他人に背中を押されなければ顔を見に来ることもできないのか」皮肉めいた言動がヒデから出てくる。その場面を読んだときは嫉妬か?なんだこのくすぐるような言葉は。嫉妬されて悪い気はしないのは私だけか?口元に笑いを浮かべながら徐々に感情移入していく自分がいた。二人の時間が少しずつ増えていく事で、長瀬と会っているときでさえヒデを思い出してしまう自分の心の動揺に気づいていく辺りなんかは女心としてはなんとも切なく理性が保てるのか、このまま流されるのか、どちらに転がってもドキドキが止まらない。(私の感情)

ヒデの自己都合からの退所の後、自宅での生活が始まりそれに伴ってヒデの主治医は真紀とは関係の無い他医院の医師が担い往診していた。それにも関わらず真紀の所にヒデから何回も着信が来る。電話に出られなかった真紀。不安か?愛情か?理性飛んだか?直接自宅へ行く真紀。

愚行の始まり

ヒデの要望は「モルヒネを分けて欲しい」だった。ヒデとの再会はヒデの計画だったのか真紀を恋人としてではなく死の伴侶として、自分とよく似た女を誘いに来たのか?それでなければ安楽死を法律で認められている国からわざわざ帰国してきた意味がわからない。そりゃそうだ。私の感じ方としては死の伴侶としてもちろん、男として忘れられない女に会いに来た。未練があったのでは?総合的に日本に引き寄せられたのではないかと思う。ヒデの部屋に行った後の官能シーンは直接本を手に取って読んでいただきたい。(私の願望)

再びヒデの部屋に行ったときのヒデの要望は「一緒にアムステルダムに行こう」「人に会いに行く」向こうに置いてきた妻に。疑問。不安。心配。愛情。色々なものを抱え。考え。自分だったらなんとも複雑な医師としてはついて行きたいし、女としては・・・どうなんだ?

長瀬(上司兼婚約者)に4日ぶりに会い、5日間の休暇を希望する真紀。「アムステルダムに同行を頼まれた」と。長瀬は医師。ヒデの病状も、ヒデと真紀が昔、何かあったであろう事も知っている。その長瀬が一言「その代わり、今年の盆暮れは働いてもらうぞ」かーっ!私が真紀だったら惚れ直してしまうぞ。なんてでかい人間なんだ。どんと構えて戻るところを作っておいてくれる所なんか、この人で良かったと思う瞬間ではないだろうか。

アムステルダムに着いた二人は、公園でベンチに座りたわいもない話をしたり、散歩したり。昼食を摂るためレストランに行くが「眠い」とヒデに言われレストランに一人おいて行かれ、真紀は追いかけて探し回ったが、会えずホテルに戻る。そこでグランドピアノの音色が聞こえ、それを力の入らない右手も用いて弾いているヒデの後ろ姿が見えた。日本では弾かなかったピアノ。アムステルダムに来て?帰ってきて?。日本ではなかった心境の変化があったのか?かつて好きだった男がピアニストとして生きられなくなった。生きがいがなくなった。ピアノだけの人生。それしか考えられない。そんな本人しかわからない胸中。見ているのも辛くなる。辛くて見てられなくなる。そんなことを考えながら読んでいたら、私だったらアムステルダムに着いてきたこと自体後悔しそうだ。そして先に自分が潰れないように気持ちの立て直しにかかるような気がする。その後ヒデは真紀のカバンから内服薬だけを持ち出し姿を消す。モルヒネは注射器共々置いていった。その消えた日はコンセルトヘボウの見学を約束した日だった。

ヒデが消えてから真紀は探しに出た。ヒデのカルテに記載されていた住所を手がかりに。そうしたら、小さな商店に着き、そこには楽譜や楽器が売っていた。店主にヒデのことを聞いたらオランダでのデビューアルバムを出してきた。そして最後のコンサートで起きたことを話してくれた。でも結局はヒデが自分の消息をたどられないよう仕組んだ住所だった。

最後のコンサートで起きたこと。中古楽器店の店主の話によると、ヒデは演奏を途中で投げ出してステージから立ち去った。「思い上がりからミステリアスな伝説を作ろうとした」「弱気で聴衆のプレッシャーに耐えられなかった」とか、馬鹿にする声が上がったりしたそうだ。その時にはおそらく発病していたのだろう。思うように弾けない。なんだこれ。巨大な不安。こんな筈じゃ。ステージの上で初めて気づき思ったのか。それとも今までなんとなく異変に気づいていたのか。それは定かではないが、投げ出したいぐらいの大きな衝撃があったんだろうな。

真紀は往復の航空チケットを買っていたので、ヒデに会えないまま帰国。

ヒデは妻に会えたのだろうか。

真紀が日本に着くと、タイミング良く、空港に息せき切ったようすで駆け込んでくる長瀬。

「彼はどこへ?」長瀬。

「さあ・・・きっと、彼のあるべき所へ」真紀。

その真紀の行った言葉が、読んでいる私には、彼女も彼女のあるべき所に戻ってこれたのではないかと。多少じーんとしました。みんなそれぞれの人生を格好良く生きてるな。波瀾万丈の人生を送って手に入れるものもある。

この本の印象としては、静かで激しい感情が表現されている恋愛小説。

因みに今まで名前が出てこなかったけど、この本には、坂本という事務員が登場します。坂本は真紀の勤めているクリニックの事務員で、真紀の相談相手。ヒデが知らないことも、長瀬が知らないことも、真紀のことなら何でも知っている。真紀が心許せる人。真紀の生い立ちから考えるとそういう人が出来たんだ。孤独ではなかったんだ。となんとなく意外だった。坂本は真紀以外でも患者さんの事や職員のこと、本当か嘘かわからない情報をたくさん持っていて面白おかしく淡々と話す(私の想像)

この本は、賛否両論と助言を頂いたが、大分感銘を受けた。刺さったゾ。


私の心に刺さった、坂本のお言葉。「本人の自由を保ったまま死ぬのが尊厳死で、尊厳死を望みながら遂げられそうにもない、心身ともに難しい事態を迎えた人のための、ある一つの選択肢が、安楽死ではありませんか?」







認められた感があって やる気が出てきます