祝!サザンオールスターズ ストリーミング配信開始①:テーマ別プレイリストで聴くサザン

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以前から待望論の多かったサザンオールスターズ及びフロントマン桑田佳祐を筆頭としたメンバーのソロ作が昨年末ついにストリーミング解禁されました。という事でサザン関連記事をいくつか。ほんとはちゃちゃっと書き上げて年内に上げたかったんだけど。。。

まずはわたしが作りましたテーマ別プレイリストを解説と共に。

Edgy Side of Southern All Stars / Keisuke Kuwata

ストリーミング解禁されたらこんなプレイリストを作りたい!と思っていたサザンファンは多いんじゃないでしょうか。気軽に聴けるようになったからこそ、「希望の轍」「君こそスターだ」といったこと90年代以降の有名曲から来る華やかでカラッと陽性なパブリック・イメージと反する側面も持つ事を伝えたいというコンセプトで作ったプレイリストです。
Radiohead『OK Computer』に感化された「世界の屋根を撃つ雨のリズム」やYMOのエンジニア藤井丈司を招いてサウンド・コラージュの嵐を振りまく「Computer Children」は前述のようなイメージしか知らない向きには大いに驚いてもらえるはず。
サザン名義ですが恐らく桑田のひとり多重録音と思しき般若心経サイケ「通りゃんせ」はあの日本音楽史上屈指のヒット曲「TSUNAMI」のカップリング。このコントラストこそサザン/桑田最大の魅力ですので是非セットで聴いて欲しい所でもありますが、先の「世界の屋根〜」と共に編集盤含めアルバム未収の楽曲ですのでファンでも追いきれてなかった人は多いかも。こういうのが聴けるようになったのもストリーミング解禁の嬉しい点ですね。
「愛なき愛児」や「HAIR」にあるサイケデリアは湘南の後輩Suchmosが大胆な路線転換を行った「The Anymal」とも通じる世界観なのでサチモスファンは必聴。
またシングル曲(これが!)ではありますがもう18年前のためご存知ない方忘れている方も多かろうと思い入れた桑田ソロ曲「東京」は、世界中を見渡しても桑田佳祐以外には書けないであろうキャリアを通じて屈指の独自性を持つ狂気のバイオレンス・ガレージサイケ・演歌。この1曲のみでも桑田佳祐の名が永遠になる価値があるでしょう。

このプレイリストが気に入ったなら…:『さくら』『人気者で行こう』『KAMAKURA』桑田佳祐ソロ『ROCK AND ROLL HERO』

Mellow / Groovy Side of Southern All Stars / Keisuke Kuwata

桑田佳祐の背景にソウル/R&BやAORの影響がある事は、熱心なファンで無くとも知っているかもしれない一つのイメージかとは思いますが、そんな側面の中からも特に、有名過ぎるが故に見過ごされているという意味で”裏の裏レア・グルーヴ”と言えそうな楽曲や(果たして2020年を通じてもこのタームは影響力を持ち続けるのかとは気になる所ですが)シティポップ・リバイバルやAOR/ヨット・ロック再評価の潮流に合致する楽曲を集めたプレイリストです。
この路線における到達点はなんといっても冒頭に置いた「EMANON」でしょう。ジャジーなメロディとコードワークをポップに落とし込んだ洗練の極地は、”日本の有名バンドのわりに…”なんて考え方はおろか”和モノ”、”シティポップ”といったタームの範疇で括る事もそぐわない音楽史上に燦然と輝くクラシック。サザンがYouTubeへの違法アップロードを見逃す方針を取っていればTyler, The Creatorが山下達郎「FRAGILE」をサンプリングするより先にUSビッグネームに見つかっていた可能性すらあったのではないでしょうか。近い時期似た路線の「海」もまた匹敵する魅力があり、この路線の金字塔は80年代中盤に集中しています。
また「いとしのフィート」「タバコ・ロードにセクシーばあちゃん」といった最初期のより土臭いサウンドでグルーヴを追求した路線も非常に魅力的ですが、こういったアプローチが時代を下るに従って減少していくのは残念ですね。2011年の桑田ソロ『MUSICMAN』では多少その辺りを振り返るようなアプローチがありましたが、このアルバムのエンジニアが土臭さという言葉の意味を知らなそうな悪い意味で硬質で平板な音作りの中山佳敬だったのが惜しい。
「シャッポ」は現行流通アルバムには未収(厳密には89年の限定生産「すいか」には収録)。

このプレイリストが気に入ったなら…:『ステレオ太陽族』『Young Love』『タイニイ・バブルス』

Singer, Song Writer, Keisuke Kuwata

”シンガーソングライター (SSW)”とは字面だけ捉えれば作曲を行う歌手全般を指す言葉ではありますが、コライト(複数作家の共作)への関与も含めれば感覚的には全く作曲に関わらない歌手の方が珍しくさえ思える時代に、とりわけこの言葉を用いるのは主に70年代前半のそれに起因するロック的な内省感を備えたアーティストに対してでしょう。そんな感覚を強く持った桑田佳祐ソロ楽曲を集めたプレイリストです。桑田は世代的にこのSSWという言葉ないし概念が花開いた時期に最も多感な時期を過ごしていましたので、こういう路線が実は最も自然体であるのかもしれません。
冒頭には初期Bob DylanもしくはJohn Lennon「Working Class Hero」をモチーフとしたひたすら内向的な「僕のお父さん」を配置しました。これはひょっとしたら最初に書きました"Edgy Side...”に入れた楽曲以上に桑田佳祐という人物に対するパブリック・イメージから遠い作品かもしれませんが、このプレイリストに最も多くの曲を引いてきた94年作『孤独の太陽』は全体がこのムードに支配されたアルバムでもあります。そういう意味で、サザン/桑田に対し"あまり好きになれそうにないけどこないだSNSで話題になってたし…”という思いからこの記事をご覧になっている方がいましたらそのイメージの振幅を広げるには最も適しているのが『孤独の太陽』でしょう。
一方で「君にサヨナラを」「祭りのあと」といったメジャー・キーで一聴してポップなシングル曲の裏側に内省を忍ばす事も桑田の真骨頂で、大変手前味噌ながらこの選曲は桑田のいち側面をかなり上手く切り取れたのでは無いかと気に入っております。
ちなみに「月光の聖者達」における桑田が幼少期に見たThe Beatles来日公演報道を振り返るという題材の中での”知らずに済めば良かった 聴かずにおけば良かった”という部分はわたしが桑田の作詞で一番好きな一節です。

このプレイリストが気に入ったら…:『孤独の太陽』『Keisuke Kuwata』『MUSICMAN』

"Another" Pop Side of Southern All Stars / Keisuke Kuwata

構造やサウンドとして歌謡曲〜J-POPの文脈から大きく外れてはおらず、パブリック・イメージにも近いポップさを持ちながら一般的な知名度があまり高くない楽曲を集めたプレイリスト。基本的には作編曲におけるポップ性と知名度のギャップを考えて選んだのですけど、結果的に、多くの場合「勝手にシンドバッド」に代表される突拍子もない言葉づかいがクローズアップされがちな”作詞家・桑田佳祐”の情緒的叙情的な面を引き出す選曲にもなっているかなと。
そのコンセプトが故に”隠れた名曲”としてファンの間で一周回っての定番になっているような曲も入れましたが、「ラチエン通りのシスター」「冷たい夏」はその筆頭ですね。そして桑田の叙情派な作詞が爆発している2曲でもあります。「ラチエン〜」の”彼氏になりたきゃどう言うの / 心からその気持ち"という、思春期の拙い情動を身も蓋もなく描ききり、その時期の記憶がまだ冷めやらぬ20代前半の青年たちが熱っぽく演奏する姿はどうしようもなく心を打つ。
一転して30代半ばに書かれた「冷たい夏」は、ヴォーカルも抑えたトーンでヴォキャブラリーもグッと大人になった情景描写をメインとしつつ”誰かが愛しくて愛しくて / 星を見てる"には”大人になっても変わんないな / 恋する気持ちはわかんないな ©おかもとえみ”なある種の普遍にまた胸打たれる。Stevie Wonderした八木のぶおのハーモニカも良いですね。
その他ウェストコースト・ロックな作編曲の出来も良い「湘南SEPTEMBER」の情景描写も美しく、「ポカンポカンと雨が降る」の昭和歌謡を支えた巨匠たちの面影が浮かんでは消える様には桑田の音楽愛が満ちていて、桑田佳祐という作家のポップ・サイドだけでも深く味わうにはヒット・シングルやベスト盤だけでは足りないのです。

このプレイリストが気に入ったら…:『バラッド '77〜'82』『バラッド 2 '83〜'86』『バラッド 3 the album of love』(『バラッド』シリーズは編集版ではありますが単にヒット曲を集めたわけではなく、そこまで明確なものが徹底されているわけでは無いもののある程度コンセプチュアルに、ヒット・シングルに囚われず各期間のポップ路線の傑作が集められた好盤です)

Cult Classics of Southern All Stars / Keisuke Kuwata

一風変わった楽曲から、時代のめぐり合わせや偶然でか作り手が意図しない面白さが産まれた楽曲、1トラックでコンセプチュアルなものなど、カルト的な楽曲を集めたプレイリスト。
原由子作曲のインスト「ボディ・スペシャル I」は、2019年に出たコンピレーションで最も話題になったと言っても過言ではない、日本のシティポップや(ニューエイジと近似値的な)ニューウェーブを集めた『Kankyo Ongaku』に入っていてもおかしくない方向性。
松田弘ヴォーカルの「遥かなる瞬間(とき)」はトリップ・ホップあたりを意識したんでしょうが、リヴァーブ過多な音像が結果的にちょっとアンビエントR&Bを図らずも先取りしたような音にもなっています。
全体としては低調なリリースが続いていた時期の桑田ソロ「ヨシ子さん」は、トロピカル・ハウスを狙ったんだかボリウッド音楽を狙ったんだかファンキー・コタとかをスクリューしたイメージなんだか、Martin Dennyの時代のエキゾを現代的にしようとしたんだか、それらを計算して混ぜたのか偶然そうなったのか全くわからない怪曲。これをシングルにしたのも凄い。
その他コード進行を歌い定形から脱出できない己を自虐し、と自己言及に満ちた歌詞のブルース「THE COMMON BLUES〜月並みなブルース〜」、日本の古典文学の一節を抜き出して小品を作りそれを『Abbey Road』B面のメドレーを模してまとめたTV企画発の「声に出して歌いたい日本文学」など。

このプレイリストが気に入ったら…:関口和之 & 砂山オールスターズ『World Hits!? of Southern All Stars』桑田佳祐『I Love You -now & forever-』(これはボーナスディスクが最も面白いのですがストリーミングではオミットされているためCD推奨)

All Stars from Southern All Stars

桑田佳祐以外のメンバーのソロを集めたプレイリストです。ここまでのプレイリストは聴き通せる1時間前後の尺にまとめてきましたが、桑田以外のソロはそもそも全然聴いていない、どういう事をやっているのかもよくわからない、という向きも多いかと思い曲数多めに詰め込みました。ただ最初の8曲は原・松田・野沢・関口から特に推薦曲をそれぞれ2曲ずつ並べています。まず最初の8曲を聴いて、後はシャッフルで、というのが推奨の聴き方です。
とりあえずそれぞれのメンバーのソロの傾向を書きますと、原由子は桑田と夫婦だけあってソロでも関与が多く、サザンではあまり多くは聴けない原自身の作曲もサザン〜桑田ソロのポップ・サイドのイメージからあまり遠くない楽曲が多いですね。
松田弘はAORやシティポップ傾向の楽曲が多く、ドラマーのソロでありながらミックス的にもドラムを強調するというよりきっちり歌を聴かせるスタイルが多め。そして自身もそこそこ歌えるのにゲストを招くのが好きで、一十三十一、paris matchのミズノマリ、古内東子とシティポップや和製R&B好きにはたまらない面々と共演しています。
関口和之のソロ活動はウクレレをフィーチャーした作品が最も知名度があるでしょうが、全体的に細野晴臣の影響が感じられ、ウクレレも細野さんのエキゾ趣味や所謂”ワールド・ミュージック”への傾倒から影響を受けてのものかもしれません。ホッピー神山や鈴木惣一朗、青柳拓次らサザンのイメージと遠い人脈と最も共演しているのはなにげにこの人。
野沢毛ガニのソロは残念ながらJapanese Electric Foundation (J.E.F.)名義の1作しかありません。腰の病というパーカッショニストとしては痛手を負ってしまいましたので、今後もあまり活発なソロ活動は望めないでしょうか。しかしその1枚はなかなか面白い作品で、高橋幸宏作品やTodd RundgrenがプロデュースしたXTC『Skylarking』のようなニューウェーヴのポップ・サイドがお好きなら興味深く聴ける事うけあいです。

それぞれのソロを最初に聴くなら…:
原由子『Loving You』
松田弘『FUTARi』
関口和之『World Hits!? of Southern All Stars』
野沢毛ガニ『Japanese Electric Foundation』

②アルバムレビュー上
③アルバムレビュー下


結構ギリギリでやってます。もしもっとこいつの文章が読みたいぞ、と思って頂けるなら是非ともサポートを…!評文/選曲・選盤等のお仕事依頼もお待ちしてます!