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理不尽な進化

吉川浩満の「理不尽な進化」を読んだ。

近くの本屋で気になったので買ってみた。
進化という言葉に対して、理不尽という表現を使うのが面白いなと言うのが第一印象だった。

序一二三終章の五章だてである。

序章では、「進化」という言葉が生物の進化以外にも日常生活に浸透していることへの指摘から始まり、現在いる生物はこれまでの歴史の中で生き残ったごく僅かな種類で、これまで存在した生物の99.9%は現在には生き残ってないことから、種の絶滅についての話が開始されていった。
進化を絶滅の視点からみるのはあまりしたことがない気がして面白いなと思った。

一章では、おもに絶滅の種類(理由)について書かれていた。
生物は運が悪くて絶滅するのか?遺伝子が悪くて絶滅するのか?
この問題に対してデイヴィッド・ラウプという学者の考えを引用して、下記の3種類の絶滅の仕方があると書かれていて面白かった。

1.弾幕の戦場
2.公正なゲーム
3.理不尽な絶滅

一つめ弾幕の戦場はわかりやすくによる絶滅である。
火山の噴火や隕石の衝突など、そこに存在する生物たちに直接的に弾幕の戦場的な衝撃が与えられることによる絶滅のことだ。
二つめ公正なゲームもわかりやすくいうと遺伝子による絶滅である。
他の種との生存競争や環境への適応によっての絶滅のことで、イメージしやすい。
三つめの理不尽な進化は少しややこしく遺伝子の複合的な要因による絶滅である。恐竜の絶滅も隕石の衝突による氷河期(運の問題)に適応(遺伝子の問題)できなかったことが原因であると書かれていた。確かにそういえばそうだが、隕石や火山のせいで絶滅したという直接的なイメージがあったので少し違和感もあったがなかなか興味深かった。


二章では、日常生活における「進化」「適者生存」などの言葉の用いられ方について書かれていた。
適者だから生存するのか、生存するから敵者なのか、これは言い換えできるのでトートロジーで意味のない言葉なのではないか というようなことが述べられつつ、適者生存という言葉の響きが自然法則的な雰囲気を持つことから、ビジネスなどの日常場面で用いられる際は、科学的な意味から離れ「言葉のお守り」となっているという考え方は面白かった。
また、「進化」という言葉事態には良い意味も悪い意味もないが、日常会話で用いられる場合は肯定的な意味合いが多く含まれるというのは、確かになと思った。

三章では、ダーウィニズムにおける適応主義についての論争がまとめられていた。
適応主義とは生物が持っている特徴を環境に適応するために存在すると仮定して理論を構築する考え方である。
主な登場人物はスティーブン・ジェイ・グールド、リチャード・ドーキンス、ダニエル・C・デネットの三人の学者で、彼らの考えを引用しつつまとめられていた。
グールドが適応主義反対派で、ドーキンスとデネットが適応主義肯定派(主流派)である。

グールドは 人がズボンを履くからといってズボンを履くために足があるとは限らない、といったことを例にあげつつ、全てが適応的に進化しているという偏見や先入観は問題があるのではないかと適応主義を批判した。
それに対し、ドーキンスは適応主義的に考え、それが矛盾する部分でそのズレをさらに研究し把握することで、最適化に対する生物の能力としての制約などを具体的に知ることができると反論した。「全ては最善のために存在する」という盲目的信仰(パングロス主義)でなければ適応主義は有効なアプローチであるというのが彼の主張である。
また追い討ちとして、デネットは悪い適応主義もあるかもしれないが、適応主義こそ進化の足取りを解読するための比類なく優れたヒューリティクス(時間と労力を削減して正解に近い解答を導き出す方法)であると主張した。
結果的には、グールドは適応主義に変わる方法をうまく確立できず主流派閥を覆すことはできなかった。
ただグールドの基本的な考え方として、生物がもつ特徴がなんの役に立っているのかということ(現在的有用性)と、それがどのような経緯でそうなったかということ(歴史的起源)は本来あくまで別のことがらであるという考えは新鮮で面白かった。
また、自然淘汰説的なプロセスや 自然が今あるような姿になったのはそのプロセスの結果に過ぎないという生命の樹的考えはそれぞれ別々のものであり、進化というテーマに対してはそれらがまとめて考えられやすく、そのため論争が起こりやすいという見立ては興味深かった。


終章では、グールドが現在的有用性に対する歴史的起源の独立性、自然淘汰説に対する生命の樹の独立性を確保しようとしたという話をベースに、世界に対する知識や物の見方についてが述べられていた。
科学が発展するたびに知識や物の見方は更新されてゆき、その度ごとに新旧の間で緊張が生じるというのは確かになと思った。
そして、最後には筆者はそういった緊張や対立がなどが起こった際に「なんの関係があるのか?」と問いを立てることが有益であるとまとめていた。

グールドの考えのように本来は別々の視点で見るべき事柄であるかもしれないという考えを持って物事に対して向き合っていけば、また違った目線で世界を見つめることができるのかもしれないなと思った。


理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ
吉川浩満
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