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飲むべき定番クラフトビール #濃色ラガー編

今回はタイトル通り、スタイルを「濃色ラガー系」に絞って、イチオシの定番銘柄を紹介していきたいと思います。改めて見直すと、かなり大上段に構えたタイトル。初見の方はヒく向きもあるかもしれません。要するにクラフトビールファン及び今後ファンになる皆さんに「数多ある国産クラフトビールのうち、原則年中手に入る『定番銘柄』縛りで、ぜひこの辺りは押さえていただきたい」という銘柄をご紹介するシリーズです。

そのあたりの背景は前回「 #序論 」ということでクドクドと書きましたので、未読かつ時間に余裕のある方は目を通していただけると大変嬉しいです。

https://note.com/44_tk/n/nfc39252fb992

さて、今回紹介する濃色ラガーというのは、その名のとおりラガースタイルかつ外観が濃い色のビール。以下、初回なので少しビールの区分についてご案内します。既に知ってるよ、という方は読み飛ばしてください。

ラガーという言葉自体は、ビールに関心のない方も時々耳にされると思います。おおまかに言うと、現代のビールは製造過程によって「ラガー」と「エール」に大別され、比較的低温長期間発酵させる(そのような酵母を使う)のが前者。例外はありますが、エールと比較すると味はすっきり、シンプルな傾向にあります。

外観については、ビールの色あいに影響を与える要素には水質や副原料も挙げられますが、最も重要なのは麦芽(モルト)だと言えるでしょう。その品種や焙燥、つまり熱風を当てる度合いによって、麦芽は淡い色に仕上がったり、いわゆる黒ビールに使われるような濃色になります。また、色だけでなく、焙燥の過程でモルト特有の香りが生じたり、糖分がカラメル化したりします。一般に、濃色ビールは焙燥や焙煎を加えた麦芽を使うことで、その香ばしさ、甘味が強調される傾向にあります。

つまり、濃色ラガーというのは、かなりざっくり言うと「すっきりしがちなラガースタイル」でありながら「モルト特有の風味甘味が感じられる」タイプのビールと言えます。

(というか、前回の言い訳にまみれた序論、ほんとは上記区分の話とかを持ってくればよかったのか...?)

なぜ濃色ラガーを初回に紹介するかというと、ここ数年の本邦のクラフトビールブームにおいて、私見ながら正直この分野のビールが最も「脚光を浴びてない」分野だと考えており、逆に言うと自分なりに、是非皆さんに知ってもらいたい、という思いがあってのことです。

確かに、強烈なホップの個性が売りの西海岸IPAや濃厚なインペリアルスタウト、そして新奇な諸々のスタイルと比べると、やや地味な感があるのが濃色ラガーかもしれません。しかし本場ドイツやチェコを中心とした歴史の中で磨かれてきた同スタイルは洗練の極みにあり、国産クラフトにも、飲むとハッとさせられるような味覚体験をもたらす高品質銘柄は数多く存在します。

今回はそんな中から、下記の3銘柄をご紹介。

ダークラガー / 奥入瀬ビール
http://www.oirase.or.jp/beer/line_up/index.htm

青森県は奥入瀬渓流で醸造している「奥入瀬ビール」。定番としては他にピルスナー、ヴァイツェン、アンバーラガーがあります。ダークラガーはアジアビアカップ '15、'16連続金賞。

何といっても、この銘柄の魅力はモルトの奥深さ。飲んだ瞬間に広がる香ばしさとふくよかな甘味がファーストインプレッションですが、後ひかず抑制が効いている。ボディも中軽量で、正直「ゴクゴクイケてしまう」印象すらあります...が、一方でそういうふうに飲むには勿体ないような、味わいの豊かさ。初めて通販で買ったとき、思わず2本連続で開けました(結局ゴクゴクいった)。味は豊かですが、印象としては穏やかさと優しさを感じる一本です。

黒ビールは色やほろ苦さから「焦げ」のイメージを連想しがちですが、焙煎ではなく焙燥という言葉を使うとおり、必ずしも黒っぽいビールに焦がしたモルトを使っているわけではありません。一方で、このビールのスタイル(ヨーロピアン・ダークと解釈しています)では、確かに焙煎したモルトを使っており、その香ばしさを特色とする銘柄が多い。飲みやすさやビールとしてのバランスの中で如何にローストモルトの面白さを引き出せるかというのが、高品質な濃色系ラガーの条件だと思っています。そういう意味で奥入瀬ダークラガーは素晴らしい。

かねがねTwitter等でも書いているのですが、東北エリアにはこの奥入瀬ビールさん始め、高品質高評価なラガー系ビールを造るブルワリーが沢山あります。メジャー銘柄もあれば影の実力派もいる印象ですが、今回の一連の記事でも色々紹介できれば幸い。日本酒でいう「東北・日本海側といえば端麗辛口」といったような地域性、エリアを聞けば銘柄の味のベクトルが想像できる(そして時々気持ちよく裏切られる)ような感じが、国産クラフトビールでも出てくると面白いなぁ、とか妄想しています。

シュバルツ / ハーヴェストムーン
https://www.ikspiari.com/harvestmoon/

舞浜・イクスピアリの地ビール工場、ハーヴェスト・ムーンの定番銘柄。

名前の通りシュバルツ・スタイルのビールです。先述の奥入瀬のダークラガーと比べると甘味は抑制されていて、相対的にロースト感をより感じる印象です。そのように甘さとバランスのとれたほろ苦感、カカオの風味も想起させる一本。印象としては端正、シャープなシュバルツ。ハーヴェスト・ムーンの他銘柄同様、瓶デザインといい、凛とした瓶の佇まいもグッド。

こういうバランスとスムースさに優れたビールだと、デイリー的に食べ物とペアリングして飲んでいく可能性(もとい、空想)も広がっていきますね。ドイツ料理は勿論、塩味の効いた薄口の煮込みとか、そういう和食にも合いそうな...試してみたい。また、濃色ビールとスイーツを合わせる発想も広まってきた今日この頃。宮崎ひでじビールに「栗黒」という栗を使ったハイアルコールスタウト(エールです)がありますが、シュバルツにもそういう方向性があっても面白いのかもしれません。

ところで、地方在住の方には「イクスピアリ」って何?という方も多いかもしれません。要は夢の国...つまりTDRの一角を占める複合商業施設です。日本クラフトビール界では老舗かつ最早重鎮的ブルワリーですが、そういう場所でクラフトビール造ってるってちょっと意外ですよね。

不肖自分は夢の国じたいの園内には15年近く立ち入っておりませんが、生のハーヴェストムーン銘柄が飲めるイクスピアリのビアホール、ロティズ・ハウスは昨年訪れました。バカンス客に混ざっての舞浜下車はちょっとアウェーですが、お店に辿り着けばそこはビール好きにとっての夢の国、入場チケットは不要、(たぶん)本家夢の国よりは並ばずに入れます。



ラオホ / 富士桜高原麦酒
https://www.fujizakura-beer.jp/

ごめんなさい写真は公式サイトご覧下さい!

こちらのビールは前述2種とはスタイルが異なり、その特色は何といっても、ブナのチップで燻製した麦芽を使っている点...つまり、クラフトビールファンの方にはお馴染みかと思いますが、類を見ないスモーク・フレーバーを売りにするビールです。

とはいえ変わり種と侮るなかれ、ドイツのバンベルクスタイル・ラオホビールと呼ばれる、歴史あるスタイル。たしかに自分も初飲時、スモーク感に強いインパクトを覚えた経験があります。しかしよくよく飲んでみると、濃色ラガーらしいモルトの個性も十二分に引き出されており、いわゆる「一発屋」ではなく常飲したいバランス感、安定感ある品質。現地の伝統に裏付けられたレシピと技法、そして富士の自然をバックに生まれた一本といえます。

ところで、スモーキーなお酒というと、代表的なのはスコッチウイスキー。ラオホビールについては、勿論スコッチのようにじっくり楽しむのもいいけれど、会食等の場でワイワイ楽しむのもオススメです。各地のオクトーバーフェストで出品されるのもその証左。興が乗ってきたあたりで一同ラオホをグイッといけば、初飲者はその強い個性に驚き、既に飲みつけている方はその高品質を改めて楽しむことができ、場に盛り上がりが添えられるのではないでしょうか。もちろん、燻製料理や肉料理とのペアリングも高ポテンシャル。

日本におけるラオホスタイルの先駆でもある、富士桜高原麦酒さん。'90年代以来、富士北麓にてドイツ仕込みの技術でビールを作り続けてきたブルワリーです。数々の国際的審査会での受賞歴も出色。現地に伺ったことは未だありませんが、富士山麓の直営レストランで味わう新鮮なジャーマンスタイルビール、想像するだけで喉が鳴ります。

ダークラガー2種類の写真を掲載した結果、初回から画面が黒々とする形となってしまい、内心いかがなものかというような感じも抱きつつも...とにかく最初に濃色ラガーを紹介できてよかったです。定番ビール紹介の企画なので当然ながら、全部ブルワリーさんの公式通販で購入できる銘柄。あまり濃色ラガー飲みつけていない方も、家飲みのお供にぜひポチってほしいです。それでも不安なら縁起よくアマビエIPAと一緒に買おう(てきとう)

他にも濃色ラガーにはデュンケルドッペルボック等、ドイツを中心として大陸欧州の伝統に裏打ちされたスタイルがあり、日本のブルワリーもラインナップを揃えています。また是非機会を見てご紹介したいと思います。

次回は「淡色ラガー編」。日本人に馴染み深いピルスナースタイルはじめ、梅雨時期の気晴らしにも是非飲みたい、そういう銘柄を紹介していければ...というふうに期しておる次第です。また次回。



あんまり関係ない話。

神楽坂にできた Taihu Brewing のタップルームにいきたい。台湾クラフトビールの雄による直営店。

以上

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