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#73 平成殺害事件

「間違いありません。平成は令和3年に殺されたんです。」

 そう語る昭子さん(仮名)の目は怒りや憎しみ、悲しみなど様々な感情が入り混じっており、お世辞にも美しいとは言えなかった。

「元号が平成から令和に変わってまだ3年も経ってないのに、幸不幸共に大きな出来事が多すぎるとは皆さん思っていることだと思います。
 その中でも、令和3年は特に平成に関することがあまりに多すぎます。この事実こそが、平成殺害の犯人は令和3年だという動かぬ証拠です。」

 2019年5月1日からから始まった令和も今年で三年目を迎えた。新型コロナの感染拡大など明るくない話題も多いが、反面音楽や芸術など様々な文化が発展し続けているように思えるが、昭子さんからすると今年は”平成が殺された年”だという。

「最も記憶に新しいのは松坂大輔選手と斎藤佑樹選手の引退です。両選手とも甲子園優勝投手として活躍した後にプロ入り。二人とも平成の野球界の顔とも言える偉大な選手でした。
 そんな二人が今年同時に引退を発表して、つい先日引退試合を終えたところです。”平成の怪物”、”ハンカチ王子”として一大旋風を巻き起こした二人の引退は、一つの時代の終わりを意味しているんですよ。」

 昭子さんによると、この一つの時代の終わりこそが平成殺しの象徴というらしい。二人のスター選手が同時に球界から去るというニュースはスポーツ界に衝撃を走らせたが、平成殺しはスポーツのみに止まらない。

「今年の3月8日、世界中に多くのファンを抱える人気アニメシリーズの完結作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開されました。四半世紀に及ぶ平成アニメの代表作が一旦の完結を迎えた、これほど恐ろしい話が他にありますか?
 確かに始まりがあれば終わりもあると言いますが、これほどまでの人気作を終焉に導いた令和3年の執念を感じた時、あまりの恐ろしさに体が動きませんでした。」

 筆者もエヴァンゲリオンシリーズのファンだったが、完結するという触れ込みには驚きを隠せなかった。カルト的な人気を博し、圧巻のストーリーと表現方法から世界的作品となったエヴァの完結は、確かに時代の幕切れを感じさせる。

「マンガ界は最も大きな被害に遭いました。
 アニメ化もされ世界中で大ヒットを続けた『進撃の巨人』、およそ17年間連載された私も大好きな『絶対可憐チルドレン』、独自の視点でジェンダー論を説き、歴史物としても高い評価を受け多くのマンガ賞を受賞した『大奥』、good!アフタヌーンの看板を背負い続けた異色のバトルマンガ『亜人』。
 どれも平成のマンガ界で先頭を走り続けた傑作ですが、これら全てが今年完結を迎えました。ここまでするなんて。もはや蹂躙ですよ。」

 インタビュー中、昭子さんは終始怒りを露わにしながら答えて下さり、時には涙も見せた。
 平成と共に生きた彼女からすると、多くの思い出も共に殺されたかのように感じてしまうのだろう。

 令和3年による”平成殺害事件”の疑惑について、詳しい話を警察署の方々に伺うと、

「確かに今年、令和3年はジャンル問わず平成に関する事柄の終了が続きました。中には多くの人々に影響を与えた人との別れや、印象的な作品の完結などもありました。
 しかし、平成に始まったもので終了は令和になってからも毎年ありましたし、そもそも時代や元号の変遷の中で始まりと終わりが交互に訪れるのが世の常です。TVのアナログ放送が終了した時に平成が逮捕されたという例はありません。昭和に連載開始された『シティーハンター』が平成に入って完結した当時、平成が起訴されましたか?
 現時点で、令和3年が平成を手にかけたという決定的な証拠がないので、事件として警察が動くことはありません。」

 令和3年は平成を殺害した凶悪犯なのか。そもそも本当に平成は死んだのか。
 今年も残すところおよそ2ヶ月。昭子さんの話したことが真実か否か、世間の目は今年・令和3年の動向に注がれるだろう。

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