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#46 劇場版セーラームーンを無精髭が一人で見てきたハナシ

 子供の頃からカワイイものが好きだった。もちろん仮面ライダーやウルトラマンも熱心に見ていたが、日曜日の朝「ふたりはプリキュア」も食い入るように見ていた。
 最近になって知ったのだが、同世代の男で見ていた方は少ないらしく、たまに「ふたりはプリキュア」の話をすると(?)という顔をされる。親戚から「ヨウちゃんはカワイイねぇ~」とちやほやされていたから、自分と同じ、もしくはそれ以上のカワイイを本能的に求めていたのだろう。

 そんな現世のカワイイを追い求める者として、当然のごとくセーラームーンも見ていた。アニマックスで再放送されていたので、たくさんある昔の名作の一つとして認識していた。
 ブラウン管の中で、美少女戦士たちは輝いていた。カワイく、美しく、そして頼もしい。
 そんな彼女たちの弾けるような笑顔が、シノヘヨウという一人の少年を魅了するのに時間はかからなかった。

 時は流れて令和。あの日の少年は、いつ飲み終えたのかすら覚えていない空っぽの酒瓶とシケモクだらけの1Rで、堕落した生活を送っていた。
 モテるための努力をしないくせに「リア充は死ね。」とほざき、金がないだけのくせに「服に金かけるのはバカ。」とのたまい、挙げ句の果てには、テメエのためにやっているわけでもないのに「美人はすっぴんの方が良い。」と糞以下の妄言を放つ始末。
 目ヤニ程度の存在価値しかないくせに無駄にカロリーを摂取しては、一丁前に二酸化炭素を放出する下等生物と成り果てた、ただ死んでいないだけの肉塊。もとい私のもとに、ある日ビッグニュースが飛び込んできた。

セーラームーンが、劇場版となって帰ってくる!!

 新型コロナの感染拡大の影響を受けながらも、無事2021年1月に公開が始まった。
 早速私は、以前からセーラームーンの話をしていた友人Oに連絡をしようと踏み切った。しかし、彼女は東京から離れ、故郷の町で静かに過ごしており、同行は不可能であった。
 考えてみれば当然の結果である。せこせこ働いて稼いだなけなしの小銭を全て酒に溶かし、新社会人の一員として世のため人のためと一歩前進する年齢でありながら、穴の開いたパンツと靴下を平然と着こなす高血圧クソデブメガネのくせして、女性と映画鑑賞でもなんぞ考え違いも甚だしい。

 「一人で行くかぁ、でもなぁ」とか思いながら、東京にいて暇そうな知り合い、かつセーラームーンを知ってそうな飲み友Aを見つけたので、誘ってみることに。しかし、その日は仕事だということで断念。
 考えてみれば当然の結果である。マスク着用をいいことに無精髭をたくわえ、マスクとか関係なしに乳首の周りに丁度キモいくらいの長さの毛を伸ばしながら、何食わぬ顔で喫茶店に入り、これ見よがしに三島由紀夫を黙読するようなゲロダサ踵カチカチ野郎のくせして、女性と映画鑑賞でもなんぞ笑止千万。

 仕方なしに、一人でTOHOシネマズ日本橋へ。平日の18時という時間帯と、自粛期間の影響から人通りはやはり少ない。日本橋のTOHOはコレド室町内3Fにあるため、入館後エスカレーターに揺られながら入口に向かう。
 速やかに発券し、せっかく来たんだしということで、テキトーにアイスコーヒーを購入。
 この時、「ツレが昔からファンで、どうしてもって言うから今日は一緒に見に来たんですわ」作戦が失敗に終わった私は、「フリーで活動しているから試写会には呼んで貰えなくてね。でも往年の名作ってんだから自費で見に来ましたよ」雰囲気の映画ライター作戦で挑むことにした。

 それにしても、映画館のスタッフさんの接客は素晴らしい。ダサコート大男が乙女の憧れ美少女戦士を一人で見に来たというのに、笑顔でお迎えしてから流れるようにスクリーンへ誘導してくれる。
 おまけに、入場者特典であるセーラー戦士揃い踏みのキャワワカードを優しく渡してくれた。こんな物まで配ってくれるのか。流石セーラームーン、これは子供も喜ぶだろう。ライターである私は感心した。

 あとで写真撮って自慢しようと、浮かれ気分のライターだったが、ここで現実を突きつけられる。
 案内されたスクリーンは、私とOLさんのたった二人で貸し切りだったのだ。しかもすぐ目の前で、彼女はポップコーンまで用意していた。

 心の底から、本当に申し訳ないと思った。今日この日この時間に私さえいなければ、この人は大好きなセーラームーンが大画面で活躍する姿を貸し切り状態で見られたというのに。
 一人のカス男が気まぐれで混じってしまったせいで、お互いちょっと気まずい感じでキラキラ輝くメイクアップを見なければならないなんて。
 我々二人は神を憎んだ。こんな試練を与えるならば、貴様は神でもなんでもない。その所業は悪魔そのもの。憎い、ただひたすらに貴様が憎い。今日から私は映画ライターという肩書きを、いや、人間であることを捨てる。貴様を討つ悪鬼として、天への反逆者となろう。

 槍をこさえながら天界へ渡るにはどうすべきか考えていると、上映が始まった。

もうホンッッットに最高!!!

 何が最高ってみーんなカワイイんだ!大画面の迫力ってのもあるし、画もめちゃくちゃ綺麗だし。変身シーンなんて声出そうになったもん。
 てか、世界中が大変なことになってしまったのに制作を続けてくれて、いくつもの困難に阻まれながらも公開に踏み切ってくれた演者、スタッフの方々すげーよ。マジ感謝だよ。
 あー、神様セーラームーンを映画館で見させてくれてありがとう。マジ神だよ神様。槍とか全部冗談だから、ごめんね素直じゃなくて。ホントあんがとね。顔こそ見えなかったけど、前に座ってるお姉さんもバリ感謝してると思うわ。

 上映前までのゴタゴタはどこへやら。退館後の私の心は、曇り一つない晴天のように爽やかだった。
 一応前編後編に分かれるって言ってたから、セーラー戦士全員の変身は見れないのかなって思っていたけど、ばっちり見せてくれるんですね。ストーリーは「デッド・ムーン編」だからある程度知っていたけれど、それでも十分に楽しめましたね。ライターとしても大満足でした。

 2月11日に後編が丁度公開されたので見に行こうと思うけど、またフリーの映画ライターぶるのもキツい。だから、次こそ誰か一緒に来てくれないかと思う。
 どうにか、一日だけでもOさんが帰京してくれないだろうか。どうしても無理ってんなら、薬で眠らせて引きずってでも連れて来るしかないかもしれない。極力手荒なまねはしたくないので、協力的な姿勢を求む。

〜入場者特典のキャワワなカード〜

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