見出し画像

平熱日記。

朝起きて体温を測る。
37.5度。微熱。

ぼーっとしながら電車に乗る。

乗り換えの駅で降りて次に乗る電車を待っていると、
反対側のホームで東南アジア系の若い男女グループが方南町行きを待っている。

その中に教会のシスターが二人。
ミサの帰りだろうか。
そっか、今日は日曜日だ。

男が唐突にポラロイドカメラを取り出し、シスターに向けて撮り始めた。
シスターたちはそれに恥じらいながらピースサインで応じている。
男の甲高い声が構内に響く。

教会でもこの季節は洗礼や入会式のような式典があるかはわからないが、
シスターらは実に初々しかった。

年度初めはいつも憂鬱だ。
かつて私にも新卒入社という権利があったものの、色々あってそれを行使しなかった。

ゆえに入社式というものを知らず、何列かに座って入社記念写真を撮られることもなく、就活時に大企業でよくいるリクルーターを兼任した先輩社員が見本を魅せる茶番のようなマナー講座とやらにエンカウントすることもなく社会に溶け込んだ。
まあ、ある意味ラッキーだったのかもしれない。

マナーなんて仕事をしていけば自然にある程度形にはなるが、
言葉遣いは仕事先で同じ空間にいる人間一つで左右されることを学んだ。

毒のある言葉を使う人には、周りも似たような人がまとわりつく。
逆にきれいな言葉を使う人には、自然といい人が集まる。

これまでどの職場にいても自明の理の如くそうだった。

社会に出て最初のうちはガムシャラにやるしかないので環境を選んでる余裕などないけど、行く先々で逢う仕事相手は慣れていくと相性の良し悪しが見えてくる。

その後の縁なんてのは、そういう人間関係から繋がってくるのかなと今でも思う。

そうこう考えているうちに東南アジア系のグループは方南町行きの電車に吸い込まれていった。

用事を済ませて夕方最寄り駅に着き、駅前のいつものクリーニング屋に預けていたYシャツを受け取る。

「また襟のボタンを取らずに出して!」
クリーニング屋のおばさんにはいつも叱られる。すんません。

叱られながらも、Yシャツを入れるお持ち帰りの袋のポケットに毎回5%か7%の割引券を忍ばせてくれる。

怒られるうちが花というが、社会人を10年以上やってもまだ怒られる。
いつになったら抜けられるのだろうかとずっと考えているが、どうやら自分より年長者がいる限り終わりは見えない。

今ごろ社会に出ていきなり怒られてる新入社員は現実に戸惑っていると思うが、いずれ何年もすると自分の身体に徐々に中和されていくからあんまり深く真に受けずに一過性のものとして考えればいいと思う。

と、自らを正当化するかの如く家までの曲がり道を歩く。

寝る前に体温を測る。
36.5度。平熱。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?