「言葉る」記録#02〜教科書は学生の心強い味方〜
前回の記事でも書いた通り、わたしは現在東京大学の1年生として、さまざまな科目を学んでいます。東京大学の前期課程(1・2年生)では、必修の語学科目として英・独・仏・西・伊・中・韓・露語などのうち2つの言語を第一・第二外国語として選択し、履修しなければなりません。
多くの学生は、高校などで学んだ英語を第一外国語(既修)、残りの独・仏・西・伊・中・韓・露語のうちのいずれかを第二外国語(初修)として選択します。
わたしは第二外国語(初修)の言語として、中国語を選択しました。
中国語を選んだ理由はいくつかありますが、選択肢として選べる言語の中で「その言語が分からなければ入り込めない、文化的バブル(閉じた枠組み)」がことさらに大きそうだった、ということが言えるでしょうか。それと、東大は外国語教育のなかでも特に中国語に力を入れて取り組んでおり、例年TLPと呼ばれる特別プログラム対象者も含め、選択する履修者がかなり多いということを聞いたことがありました。
特にその徹底されたカリキュラムの集大成とも言えるのが、東大教養学部・東大大学院総合文化研究科の教員が中心となって編纂された教科書『漢語課本』です。
簡単な文法ポイント以外は説明を省いて、多くの細かな解説を授業者に委ねるデザインで編纂されたこの教科書は、そのコンパクトさとは裏腹に、本文中に登場する単語・例文の中に初学者からのステップアップのために重要な要素を濃密に詰め込んだ、骨太な構成の一冊と言えます。
授業を受ける前提で作られた教科書のため、入試・資格試験のための学習参考書のように自習に向いたタイプの本ではありませんが、きちんと予習・復習を含めて内容をしっかりと勉強すれば、これ一冊だけでも十分な中国語スキルを身につけることができるようです。
そして、『漢語課本』のその例文へのこだわりは、量だけではなく、いかにも「学生らしさ」を詰め込んだ内容にも見て取ることができます。
たとえば、第1課「彼は日本からの留学生です」には、大学キャンパス内で学生が交わすこんな挨拶の場面があります。
この教科書を読む(おそらく)大学初年度の学生が初めて触れる、第1課の例文で習う挨拶文は、「文系/理系」の言い方でもなく「一年生」の言い方でもなく、「外国語学部の二年生」や「社会人コースの留学生」の自己紹介文から始まります。
諸君らは大学で習う外国語なんて一年生で単位だけとってオサラバするものと思ってるのかもしれないが、世界はそんな狭かないんだぞ――そんな、編者の思惑が透けて見えてきそうなシチュエーション設定ではありませんか(?)。
続く第2課「苺とバナナが買いたいんです」では、なぜか苺とバナナが買いたくなっている小林さんと、大学構内になぜかあるらしい果物屋について教えてあげる方さんの、こんな会話を勉強します。
いったいこの会話は今何時なのか、本当に大学の中で完結させてよかった話題なのか、そもそもそんな日中に大学で果物を買ったら夜の講義を受けて帰るまでには傷んじゃうんじゃないのか、それともその場で食べるのか、などさまざまな疑問がありますが、小林さんはきちんと夜の講義にも出て買い物も済ませられるようなので、よしとしましょう。講義も買い物も、学生のよくある日常の一部。どちらもこなせないようではいけません。
この他にも、あまりに実用的で「学生らしい」数々の例文には『漢語課本』は事欠きません。この教科書を使って勉強した学生は、キャンパス内のさまざまなシチュエーションで、次のような例文を自然と思い浮かべるようになることでしょう。
正直なのはいい事です
大丈夫?君たちちゃんと仲良く遊べてる?
やっぱり仲良くないよね?
あんまりそういうこと人に言うもんじゃ…
ほら多分、そういうところだよ
『漢語課本』がいかに学生に寄り添った、素敵な教科書であるかがわかっていただけたでしょうか。次回は第8課「大学病院へ行きますか、それともトップクラスの病院に行きますか」でお会いしましょう。さようなら。
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