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「そうやって死んでいく」


赤い。
[パリの砂漠、東京の蜃気楼]を手にとってまず思ったことだ。
けれど開いた見返しはもっと赤かった。この表紙は赤ではなくピンクじゃないか。そう思うほどに濃い赤をしていた。
カバーを外すと、今度はどこまでも黒い。黒く、背表紙にだけ、金の文字。普段はカバーの下に仕掛けのような、ああ、そんなデザインが隠されていましたか、というものにグッときたりするが、この本にはこれしかないな、と思った。あまりに黒すぎて、カバーの裏の白地に移っている。それが更に、生々しい。
そしてスピンが、見返しと同じように濃く赤い。この紐をページに挟む度、自分の血を捧げたような気持ちになる。捧げたのか、吸い取られたのか、知らず知らずのうちに傷つけていたのか、傷つけられていたのか。

とにかくどぎつい本だった(帯がまたどこまでも暴力的)。見た目だけでこれだけどぎついのに、中身はもちろんもっとどぎつい。なんてこともないような温度で、平然とどぎつい。淡々と語られるそれらに、頭がくらくらする。

昔、金原さんの[アッシュベイビー]がとても好きだった。けれど、この本を好きな自分、というのがだんだん怖くなってきて、手元にあることが恐ろしくなって売ってしまった。
それほど金原ひとみの文章は強烈だ。過激で、野蛮で、痛くて愚かで醜くて、とても真実だ。その真実に私は救われている。えぐられてえぐられて、ぶん殴られて、ああ生きている、と感じる。この本を読んで、ようやくそのことに気がついた。

優しさやあたたかさだけで人は救われるんじゃない。隣人と手を取り合うことも大切だけど、どこまでも自分は一人だと思うこともとても大切だと思う。多様性なんて言いながら、結局どこか一所へまとめられてしまう。そのことに疑問を感じ、不快感と疎外感を抱き、それでもささやかに笑って見せ、静かに一人で死に触れる。

「誰か本音を話せる人がいるの?」
「大丈夫。私は小説に本音を書いてる」
「ずっとそうやって生きていくの?」
「そうやって死んでいく」

この会話に、なぜかほっとする自分がいる。
この本はそうやって、肯定の言葉を使わずに、自分を肯定してくれるような気がする。書き手にそんなつもりはないかもしれない。ないから、いいのかもしれない。励ますでもない、寄り添うでもない、そこには真実しかない。
この本が手元にあることに、今は救われている。


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