taimachang

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海に向かって part1 「ムジナたち」

「久しぶり、元気?」 何気なく昔の部下にメッセージを送ると「30分」程で返信が来た。 「テレパシーですか⁉︎さっき子供産まれたばっかりでした!」 「え⁉︎そうなの⁉︎おめでとう。」 「ありがとうございます!」 「西山もママかぁ、俺西山よりオッサンなのに彼女もいないよ。」 「産んだばかりでかなり疲れてますが、赤ちゃんとやっと会えて幸せですよ!」 少し間が空き、もう一つメッセージが届く。 「舜さんにも幸せになって欲しいです。」 * 「ひひひひひ!!!!!」 「なに?」 「伊

    • dub to the obscure 後編

      みうから連絡を受けた俺は、河沿いのホテルへと向かう。 駅からも近いホテルだ。 入り口付近でキョロキョロしていると俺の左半身をタクシーのライトが照らすと共に「お待たせ!」と女の叫ぶ声がした。 タクシーからぐんと巨大な影が伸び出ると、満月に照らされながらフラフラとこちらに歩み寄ってくる… 身長は恐らく175cmを超えており、Lカップの下はゴブリンの下腿を備えていた。 体重もゆうに100kgは超えているであろう。 不気味なシチュエーションに、思わず母親の手料理くらい最後に食ってお

      • dub to the obscure 前編

        綱島の静かな夜に河でBBQをする人々の声が響き渡る。 酒を飲みながら電車から降りた俺は女子トイレにも目もくれずただ家路に着いた。 俺は川崎のイメージが強いかと思うが、かつては横浜の閑静な綱島という街に住んでいた。 そこは駅前だけ居酒屋や本屋やコンビニ、リサイクルショップがあるだけで、現に俺が住んでいた駅徒歩10分の物件の周りには何もなかった。 厳密にはいつに作られたか分からない小さくてカビやコケの生えた沢山の墓とまあまあデカい寺と立派な墓に囲まれていた。 きのこの山は食べざ

        • 鹿踊(ししおど)りの香り

          深夜まで歌舞伎町でナンパをした後、山手線のホームで俺は缶チューハイを片手に呆けていた。 正しくは「ナンパをした後」ではなく「坊主を引いた後」であったからだ。 山手線に揺られながら、暗い車窓に映る自分の疲れた顔をつまみにしばらく思いに耽っているとふと、歌舞伎町でホストをしていた時の事を思い出した。 浴びるほど酒を飲み朦朧とした意識の中、女の子との予定をバックれられた俺は仕方なしに始発まで客を探しにナンパをした。その時も坊主だった。 明け方の山手線のホームで電車を待っていると点

        海に向かって part1 「ムジナたち」

          ジョンレノン

          俺が所詮ナンパ師として活動していた頃、ほぼ毎日川崎の夜を歩いていた。 酸いも甘いも、清濁も、味わい併せ呑みながら仲間と共に駆け抜け、収穫が無ければ飲み屋で朝まで語り合った。 セックスをした女の話、仕事、将来、恋愛…時に熱くなりぶつかり、時に励まし合い、時に共に悲しみに明け暮れていた日々から月日は経ち、今ではもう川崎で偶然仲間と出くわすことも一緒にナンパすることも無くなった俺は、いつからか気晴らしに夜の川崎をひとりで徘徊するようになった。 エドさん、モツさん、ダリさん、サキト

          ジョンレノン

          8月の怪物

          小学校の近くに健太くんという同級生の家があった。 放課後はよく3人で集まりドラクエやらウルトラマンの格ゲーやらをしていた。 スマブラでもポケモンでもマリカでもない。 あくまでドラクエとウルトラマンの格ゲーである。 健太くんの家に行くと決まってブルドッグ似のばあちゃんが出迎えた。 そしてみんなが持ってきたお菓子を没収するのである。入場料だ。 だが俺たちが部屋でドラクエのレベル上げを交代でしていると手作りの肉まんをくれた。 皮の外はコンビニの肉まんのようだったが噛んでみるとふ

          8月の怪物