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一歩も進まず二歩下がる

娘が5ヵ月になった。
おむつのサイズはSからMになり、髪はフサフサで寝癖ができるようにまでなっている。

寝返りをマスターしたのは確か8月中旬だったと記憶している。実家に帰省したとき、寝返りをすると全員が褒めてくれたのがよほど嬉しかったのか、家に帰ってからも寝返りしまくりだった。夜中3時、視線を感じてパッと目を覚ますと寝返りして誇らしげな顔をした娘が目の前にいたこともあった。

という具合に、寝返りが出来るようになった“弊害”を残念ながら常々感じる。

まず寝るときの姿勢がうつぶせになってしまった。怖くて仕方ない。いつも通り仰向けに寝て欲しいけど、どうやら胎児だった頃はうつぶせだったらしく、自然な流れとしてそっちのが落ち着いてしまうらしい。

それに、無理やり仰向けに戻そうとするともの凄く抵抗してくる。言い方を選ばずに例えると、道路に落ちてるガムくらいしつこい。それで変えると泣き叫ぶ。明らかに怒気を孕んだ泣き方で。

しばらくして、寝返り返りも出来るようになった。関係ないけど言葉として不思議な日本語だなと思う。往復みたいな言い回しはないのだろうか。端的に言えば一回転なんだけど、元に戻っただけじゃない感じがする。一人だったけど、付き合って、別れてまた一人になる、みたいな。

話が逸れてしまった。

言葉数も増えた。いわゆる喃語と呼ばれる言葉なのだけど何かを喋ろうとする意思が伝わってくる。猫みたいな声を出すとき、トゲピーみたいな声を出すとき。あるいはおっさんのようなトーンの3タイプがるのだけど、あれはどうやって使い分けているのだろう。テンションに合わせて故意的に変えてるのかな。だとしたら地味にすごい。嫁がお風呂に行ってしまって姿が見えなくなった時に、不安げになって泣いたことがあり、「マンマ」と言ったことがあった。動物系の番組で見る“喋る動物”と同じアレ。

おそらくたまたまなのだろうけど、喋り始める日も結構近いのだろうなとひしひし感じる。

ハイハイをし始める予兆も感じる。

何を考えてそうなってしまったのか、バッと両手も前に突き出したあと、なぜか手を横に広げ飛行機のようなポーズで進むのを待っている。進んでいるつもりなのかもしれないが非常にコミカルで笑えてくる。

という日々をしばらく過ごしたあと、ついにハイハイをし始めた。

ただし進む方向はバックだ。

本人は近づきたいのにどんどん離れていってしまう歯痒さをさぞ痛感していることだろうと思いきや、意外とそうではないらしい。形はどうであれ動けるのを楽しんでいるようにも見える。

最初はマグレでバックしていたが、両手を前に突き出し、グッと押すことでしっかりとバックしている。後退してるけど成長的には前進しているという不思議な構図。

いつのまにか赤ちゃんの匂いはしなくなった。

今までが嘘のように無臭。気がついてしまった夏の終わり、例年感じていたものとはまた別の切なさを感じた。

麦茶を飲むようになり、ハンコ注射も済ませ、そろそろ離乳食も始まるというのに

この子が自分らと同じ言語を喋ったり、ランドセルを背負うようになったり、バイトにいくようになったりする未来を全く想像できない。あぐらをかいた膝にすっぽりと収まるサイズ感のまま、永遠に変わらないような気もしてくる。

一歩、また一歩と確実に下がっていってしまう娘を見ながらそんなことを考えている。

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