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「汚辱の世界史」

・読書メモ
ボルヘス「汚辱の世界史」(中村健二訳・岩波文庫)

私、あるいは私たちは、恐竜の姿かたちを知っている。
私はそれを実際に見たことはないが、知っているに等しい程度にトリケラトプスの像を頭に描くことができる。

実在する伝記を歪め、偽物の伝記を書くこと。
先行するテクストは、パロディのように目に見えるかたちであっても、書き手だけが知る記憶という目に見えないかたちであっても、のちの作品に影響を与える。
本物の伝記と偽物の伝記はそれぞれが完成されたテクストであり、比べる必要のない別々の物語であり、それぞれがくっきりとした姿を持つちがう個体である。
史実を知りたいという人以外は、どちらを読んでも大きな問題は生じない。
美しさを備えた偽物の伝記は、初出から八十年以上がたった今も輝きを放つ。

読み手は、読み手の目で物語を見る。
トリケラトプスの姿は、日々変わりもする。実在していたトリケラトプスを知らなくても大丈夫だと思う。

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