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社会福祉士・精神保健福祉士の養成カリキュラムが変更される件について、コピペできるパブコメ案を用意しました

 2020年4月から、社会福祉士・精神保健福祉士の養成カリキュラムが改正されようとしています。でも、本日(2020年1月18日)までパブリックコメントが募集されています。あなたのパブコメ1本が、流れを変えるかもしれません。

「社会福祉士介護福祉士学校指定規則及び社会福祉に関する科目を定める省令の一部を改正する省令(案)について(概要)」に関する御意見の募集について

精神保健福祉士法施行規則等の一部を改正する省令(案)の御意見募集(パブリックコメント)について

 以下、問題点とコピペできるパブコメ案を列挙します。パブコメにお使いになる限り、コピペも改変もご自由に。なお、下記のパブコメ案を作成するにあたっては、現職のソーシャルワーカーや弁護士の皆さんによるパブコメ実例多数を参考にさせていただきました。お礼申し上げます。

科目名から「低所得者」と「生活保護」が消える

社会福祉士・精神保健福祉士の養成課程から、科目「低所得者に対する支援と生活保護」をなくす方針ということです。しかし両資格は、一人ひとり異なった背景を持つ低所得者を支援する専門家として知識と能力を担保するものであり、低所得者の支援において生活保護の利用を手助けすることは欠かせないはずです。個別の背景を考慮した多様な支援を行うにあたって、まず低所得状態を、せめて生活保護基準まで引き上げることは最低限の基本ではないでしょうか。今回の改定そのものが、「低所得」という状態への注目を妨げ、「生活保護」という可能性をソーシャルワークから排除する可能性を危惧します。

科目名が消えると内容も消える

厚労省では、科目「低所得者に対する支援と生活保護」の内容は、他の科目に分散し、引き続き学べるように考えているとのことです。シラバスにもそのように記されていますから、皆無にならないことは確かでしょう。しかし科目が消えると、「その分野を学ばなくてはならない」というモチベーションが阻害され、その分野を教えられる教員が教育の場から消えることがあります。今回の改正案にある科目「低所得者に対する支援と生活保護」の消滅が、同じ成り行きをもたらさないとは確信できません。

科目名とともに内容が消えて「科学技術立国日本」が危うくなった前例

学習指導要領が1980年に改定された時、高校理科は必修の「理科I」と選択の「物理」「化学」「生物」「地学」に再編されました。物理と地学は選択者が少ないため、両科目を教えられる教員が退職すると採用されなかったり、新規採用が減少したりしました。さらに大学教育への負荷ともなりました。高校で習得を期待してきた科目を、大学で教育しなくてはならず、大学で本来行いたい教育の足かせとなるからです。同様の成り行きとはならないことは、誰も保障できないと思われます。

障害者の就労は難しい、目に見える障害ほど難しい

精神障害者が、自分の生活を支えられる就労を継続することは困難です。障害者作業所でも、月あたり1~2万円の工賃を得るのが精一杯です。障害基礎年金と合算しても、生活保護基準以上の収入を得る可能性は非常に少ないのが現状です。生活保護の利用は必須です。

精神障害者の賃金に関するデータはどこに?

2013年(平成25年)まで、障害者の賃金は明確に示されており、厚労省サイト内で容易に探し出せました。しかし現在、検索エンジンで「賃金 障害者」を検索すると、それそのもののデータは容易には見つかりません。このことを考えあわせると、障害者(特に精神障害者)が就労によって十分な賃金を得られない現実をそのままに、福祉制度を利用させない方向への準備がされているのではないかという危惧が抱かれます。

データは「働いても生きていけない」と示していた

厚労省が2014年12月に公表した平成25年10月のデータによれば、平均賃金は、身体障害者が22万3千円(前回は25万4千円)、知的障害者は10万8千円(同11万8千円)、精神障害者は15万9千円(同12万9千円)となっていました。しかしながら中央値は、これよりもはるかに低い水準にとどまっていると推察されます。また平均勤続年数は、身体障害者は10年(前回は9年2月)、知的障害者は7年9月(同9年2月)、精神障害者は4年3月(同6年4月)となっています。原因が職場や作業所にあるのか障害者にあるのかはともかく、精神障害者の就労が困難であることは厳然たる事実であるはずです。生活保護・障害年金が基本にならざるを得ない現実をそのままに、「働けばいいはず」というソーシャルワークは考えられないと思料します。

生活保護基準に関する国賠訴訟が進行中なーう!

2013年より開始された生活保護基準引き下げに関し、全国で約1万人による審査請求が行われ、結果を受けて国家賠償訴訟が開始されました。2020年1月現在は、2020年度明け早々に予想されている最初の地裁判決を控えた時期です。わざわざこの時期に、社会福祉士・精神保健福祉士の養成課程の科目名から「生活保護」という名称を消されると、基本的人権とその行使としての審査請求・国家賠償訴訟、そして三権分立について、注目させまいとする行政の意図があると推察されても致し方ないと考えます。

「新カリキュラムでも学べる」とおっしゃいますけれど

パブコメ募集対象となっている新カリキュラムでは、現行の科目「低所得者に対する支援と生活保護制度」が、「社会保障」「精神保健福祉制度論」「ソーシャルワーク演習(専門)」に分散され、同一内容を学ぶことができ、精神保健福祉士には特性に特化した教育が行われるというご意図も拝察されます。しかし、現行カリキュラムに基づくテキストに含まれる「貧困・低所得者問題と社会的排除」「公的扶助の歴史」は、新カリキュラムに確実に同じ内容で含まれうるのでしょうか。疑問を感じます。

生活保護を熟知した講師による具体的教育が困難になる

生活保護は、座学や書籍で学んだからといって容易に理解できるものではありません。だからこそ、社会福祉士・精神保健福祉士の養成において、可能な限り、制度を熟知した講師による正確で具体的な教育が、その後の職業生活の土台として必要であるはずです。たとえば「自立」や「自立の助長」という生活保護法の用語は、時代によって大きく変遷しています。また生活保護制度と児童扶養手当制度では、他制度と異なる世帯認定をしております。その細部の変化を理解することは、生活保護が利用できるかどうかを判断するにあたって重要であるはずです。生活保護を申請した場合の要否判定においても、生活保護基準のうち何を使用するのか、正確な理解が必要です。「健康で文化的な最低限度の生活」の意味内容も、時代によって変化しています。近年では、自動車の保有や大学進学が注目を集めています。このようなことを「教えさせまい」というご意図がないのであれば、科目名を「生活保護」とした科目が独立して存在してよいほどではないでしょうか。

「余計な知恵」をつける教員はいらない?

貧困問題は、世界と人類の永遠の課題です。この永遠の課題を解消するために公的扶助が考案され、現在は新自由主義のもとでの後退と後退への抵抗が続いています。この歴史と社会の動態に、全世界的な視野をもって関心を向け続けていなくては、日本の貧困と生活保護を理解することは不可能でしょう。今回のカリキュラム改正に対しては、そういう内容を教えられる教員が養成校から排除される可能性を危惧します。土台となった検討会の報告書等に、将来的に教員人事も統制される可能性が示されているからです。

精神保健福祉士の支援対象は精神障害者だけではないはず

精神保健福祉士は、あらゆるタイプの「貧」と「困」に対してメンタルヘルスの面から支援できる可能性を持っているはずです。まさにこのことを学ぶ科目が、現在の、精神障害者に限定しない科目「低所得者の支援および生活保護」ではないでしょうか。

いずれにしても、「生活保護」が科目名から消えるのはヤバいよ

「貧困」を救う「セーフティネット」、貧困を生み出す「社会」の「構造」、そして、顔の見える具体的個人に対する「支援」、特に「経済的支援」という内容を、ぜひ科目名に残されるようお願いします。日本においては、このような内容を含む制度は生活保護しかありません。今、科目名から「生活保護」が消えるのは、日本の「貧困」を漠然とした存在とし、具体的な「セーフティネット」の必要性を漠然とさせ、貧困を生み出す「社会」「構造」に注目させず、貧困に陥った具体的な個人に対して現金と現物と人的支援を行う「支援」「経済的支援」の制度である「生活保護」への軽視、将来的に有名無実にする可能性のご表明であるかもしれないと考えます。

参考

note: 社会福祉士と精神保健福祉士が二本立ての日本。なぜこうなった?|みわよしこ

ダイヤモンド・オンライン: ソーシャルワーカー養成方針改定にチラ見えする「生活保護節約」の思惑|みわよしこ(現場の現在の実態が中心)

論座:ソーシャルワーカー養成から「生活保護」が消える 水面下の精神保健福祉士養成課程改革に隠されたシナリオ みわよしこ(制度の問題が中心)



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