見出し画像

1分読み切り短編小説「私とローリングソバット」

彼に振られた。

マイはずっといい子でいた。

子どもの頃からそう。

いつもいい子だった。

なのに、振られた。

どうして?

マイは、
ご飯を食べるのが怖くなった。

いや、
食べて太るのが怖くなった。

だから、
リセットするようになった。

でも、そんな自分が嫌だった。

YouTubeの動画には
プロレスがよく上がってくる。

別れた彼がマイの携帯で
よく見ていた物が
今尚上がってくる。

ある日、
いつものように
うんざりした気持ちで
動画をスルーしようとした。

タイガーマスクの
ローリングソバットが
関連動画で目に留まる。

ローリングソバットとは、
空中で横回転しながら
回し蹴りをする、
タイガーマスクが使った技だ。

タイガーマスクが
宙を舞う。

その時、
マイは突然決意した。

「ローリングソバットの
使い手になろう」と。

変わらないといけないと
思っていた。

マイにとっては
リングで華麗に舞う

タイガーマスクの
ローリングソバットが

自分を変えてくれる
ように思えた。

それからというもの
マイはローリングソバットを
磨きに磨いた。

いつも
心にローリングソバット。

侍が刀を左の腰に携えるのと
同様に、

マイはローリングソバットを。

それからというもの、

痴漢に
ローリングソバット。

嫌な上司に
ローリングソバット。

マナー違反に
ローリングソバット。

世の中の憤りに
ローリングソバット。

自分の弱い心に
ローリングソバット。

ついでに
振った彼にも
ローリングソバットを
かましてやった。

もう怖いものはなくなった。

だって、
マイには伝家の宝刀
ローリングソバットがあるから。

いざとなったら
かましてやったらいい。

その後、
空前の世界的
ローリングソバットブーム
に乗り、

ローリングソバットの
カリスマ、伝説になった。

ローリング御殿に、
ローリングワールドツアー、
ローリングテーマパークを
建設。

ローリングソバットが
全てを手に入れさせてくれた。

ある日、
しつこいファンに
ローリングソバットを
かましてしまう。

そのことが原因で、
ローリングソバットの
ブームは去り、

マイは表舞台から
去るしかなかった。

ぽっかり心に穴が
あいたようだった。

もう使うことはない
ローリングソバット。

だけど、
心にローリングソバットは
ひっそりいる。

だから、

何度だって
やれると思えた。

それが
自分の手に入れたことだと
改めて知った。

私のローリングソバット。

(おわり)

作/画 りょう

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(あとがき)

「小説に登場したい人」
の募集に連絡をくれた
まいさん。

ストーリーは
もちろんフィクション。

好きに書いてくれていい
とのことだったので、

ぶっとんだ話しにした。

でも、まいさんに
ローリングソバットの
気概を感じた。

かます人だと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?