アルバムレビュー:Judee Sill 『Judee Sill』

 絶賛不定期更新のアルバムレビューコーナー。今年はもうちょい精力的に書き綴ろうかなと思いつつ(紹介したい音楽は山ほどあるのです)、つい色々書きたくなる→長くなる→だんだんメンドくさくなる、という性癖(?)がなかなか治りません。

 もうただサックリとコメントつけるだけのミニコーナーにしようかな……とか言いつつ、今回も全然サックリとはいかなかった。それでは新年一発目のオススメアルバムはこちら。

・Judee Sill 『Judee Sill』 (1971)


 アメリカのシンガーソングライター、ジュディ・シルのファーストアルバムです。と、ざっくり紹介したとしても「はいはいジュディ・シルね」と頷ける方は少数派でしょう。決して知名度が高い人ではない(と思う)。ので短くプロフィールの解説をば。

 彼女の人生を紐解くと、「不遇の人」という言葉が浮かびます。

 恵まれていたとは言い難い家庭環境に育ち、10代から犯罪と麻薬に走ったが、服役中にキリスト教と宗教音楽に目覚め、出所後に2枚アルバムを発表するも、大衆的な支持を得られず、のちに交通事故に遭い、後遺症の痛みから再び麻薬に溺れ、コカインの多量摂取により35歳の若さでこの世を去る。

 2000年頃になって再評価を受けて、日本版CDも発売されるなど、今でこそAmazonなんかで容易に入手できるようになりましたが、それまではずっと忘れられた存在だったようです。そのまま小説や映画にできそうな人生だ。


 でも彼女の音楽は、そんな波乱万丈の人生とはうってかわって澄み渡った湖水のように穏やかで美しい。宗教音楽から音楽に目覚めた彼女の作曲の手法はバッハなどのクラシックの影響を受けているとも言われ、神について歌われる詞もフォークミュージックという既存の枠に収まらない崇高さを湛えている……

 と、こんなに書くと大げさに聞こえるでしょうが、僕は初めてこのアルバムを聴いたとき、思わず敬虔な気持ちになりました。神と音楽に対する深い信仰が作り出した珠玉の作品だと思います。

 眠れない夜なんかにはぴったり。聴いているうちにふっと緩やかに寝付くこともあるし、寝付かれないままずっとその音楽に身を委ねていることもありますが、どちらの場合も僕は幸福な気持ちになれます。そんな一枚。

 生前、2枚のオリジナルアルバムを出しただけで夭折してしまったわけですが、2作目の『Heart Food』はカントリー要素を加えた意欲作、死後に残されていたデモ音源等を集めてジム・オルークがミックスした『Dreams Come True』はピアノ主体のバンドサウンドで、彼女の音楽性の広さがうかがえます。ますます惜しい人を失くした。

 全国のTSUTAYAにホイホイ置いてあるアーティストでは無いですが、YoutubeにもFull Albumとしてアップされてたし、Amazon Musicなんかだと1stの『Judee Sill』がプライム会員なら聴けるみたいですね。

 カレン・カーペンターの声が好きな人とか、ジョニ・ミッチェルが好きな人なんかには特にオススメです。よかったら眠れぬ夜にどうぞ。

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