花火とともに。【短編小説】
⚠️まず初めに。田原さん、ごめんなさい。
400字どころか、3000字超えました😂
これはショートショートと呼んではいけない気がします。でもせっかく書いたので、この場をお借りして、供養させてください🥲
初めてこんなに長い小説を書くことができたのも、このお題に出会えたからです。ありがとうございます。
それでは、こころして【行列のできるリモコン】のお題で、【青春の香る】ショートショート短編小説をお楽しみください。
登場人物
上都 春来
箕里 秋人
海野 夏凛
真白 千冬
『桜川夏祭り大花火大会』
青春真っ只中の僕たち学生にとって、夏の一大イベントだ。
僕は親友の秋人と一緒に、いつも絡んでくれる女子の海野と真白を誘っている。毎年のことだが、今回もこの祭りへ行く約束をしていた。
祭り当日、なんだか落ち着かなくて祭りは夕方からだと言うのに早く目が覚めてしまった。
それもそのはずだ、今回の祭りから『ダイナミック・プレゼンテーション』という新たなイベントが開催されるからだ。
僕たちの学校では、みんながこぞって『ダイプレ』と呼んでいる。
これは、とあるリモコンを操作することで、自分の創作した絵柄の花火を打つことができるというものである。絵柄は事前に専用のアプリで作り、花火師へ依頼しておく(有料)。当日そのリモコンにデータを転送し、準備が完了したらリモコンの再生ボタンを押す。すると、自分の絵柄の花火が発射されるという仕組みになっている。ちなみに、自分で選んだ好きな曲も設定することにより、好きなタイミングで祭りのスピーカーから流せるという優れものだ。
僕はダイプレがあると知った日から、着々とその日に打つ花火や曲を練ってきた。
ようやく、ようやくその日が来たのである。
僕の最高の一発を打ち上げたい。昂る気持ちが抑えられず早くに目覚めたと言うわけだ。
しくじるわけにはいかない緊張感から、今日は念入りに打ち上げのイメージをする。
早々と熱いシャワーを済ませ、寝起きのボサボサだった髪を、そんな気配を感じさせないほど入念にセットした。
うっすらと生えかけ髭も、その息の根を止めるほどキレイに剃りあげる。
リビングへ行くと母がシンクで洗い物をしている。僕はその奥にある冷蔵庫から牛乳を取り出しコップへ注ぎ喉へ流し込み、そのまま母へと渡した。
「母さん、僕、今日友達と花火行くから遅くなる。」
コップを受け取りつつ、母は僕を見上げて言った。
「もしかして、あんたも花火のアレしにいくの。」
うちの母親はテレビで取り上げられる話題には敏感だ。
「ん?あぁ、そうそれ。今回は絶対やりたくて。」
僕がそう言うと、母はハイハイ頑張ってねっと少し適当な返事をして洗い物へと視線を戻した。
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「はるー!あんたの友達、迎えに来てるわよ〜」
「今行くー!」
僕は片耳で聞いていたイヤホンを外す。すると、誤魔化していたはずの鼓動がまた聞こえ出した。深く吸った息を、ッと止め、ゆっくり息を吐き気持ちを落ち着かせる。大事なスマホをポケットにしまい、財布を手に取って部屋を後にした。
家を出るとそこには3人が待っていた。海野と真白は浴衣を着ている。
「浴衣にしたんだ。」
「うん、2人で内緒で決めたんだ。」少し恥ずかしそうに真白が話す。真白は結んだ髪を左肩から流している。ピンクの浴衣の襟から少し見えた首筋に僕は一瞬ドキッとして目を逸らした。
「何ちょっと照れてんのよ」と、少しニヤついた顔で海野が僕の脇腹を横から肘でド突く。
海野はいつもの、耳に少しかかるくらいのショートに分け目のある前髪からデコを覗かせている。
いいだろ、別に。というように、少し肘を押し返した。
秋人は相変わらずバカ丸出しで「あぁ、俺も浴衣で来ればよかったわ〜」と空へ一人嘆いている。
僕は「ほら、もう祭り始まってるから。」と、みんなを少し急かして足を進めた。
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会場に近づくにつれて人の数も増す。特に今年はダイプレも相まって例年よりも多くなっているようだ。
僕らは4人で屋台を巡り、それぞれ買った物を共有しあった。
「やっぱ金ないから4人でいると、いろんなもの食えて最高だよな」と、呑気な秋人は、
「春来?食わねぇの?勿体ねぇし、冷める前に食うぞ?」と、内心ソワソワする僕を尻目にたこ焼きを頬張った。
4人でたわいもない話をしていると、会場内のスピーカーからお知らせが放送される。
「午後8時よりダイナミックプレゼンテーションによる花火の打ち上げを開催致します。ご参加の方は会場案内マップにありますリモコン特設ブースまでお越しください。」
僕の心臓が今までにないくらいの音を立てて走り出した。僕はゴクリと唾を飲み込む。
「ダイプレで混雑する前に花火見る時の食べ物買いに行こう。」と震えそうな声を堪えてみんなを誘う。
「あぁ、それもそうだね。」と海野が動き出した。
色々な屋台に目移りするみんなの後をついて行く。予想通りダイプレの影響もあり、歩くのもままならないほど混雑し始めた。
「ねぇ、あれ美味しそうじゃない?」と、僕は目の前にいる真白の肩を叩き呼び止める。
他の2人はその呼びかけに気づかず、人混みへと紛れて行った。
気づけば真白と2人きりになっていた。
いや、なっていた、というのは嘘だ。実を言うと、この機会を狙っていた。狙ってわざとやったのだ。真白と2人っきりになるために。
「夏凛ちゃんたちと、はぐれちゃったね…」と、真白は不安そうに言った。
「そうだね…でも、この人混みじゃ見つけられないだろうし…せっかくだからもう少し一緒に見て回らない?」と、平静を装う。
「うん、きっとまたあの場所で会えるよね」と2人で歩き出した。
「真白、ダイプレって知ってる?」
「うん、知ってるよ。花火上げれるのでしょ?」
「そうそう、僕さ、それで花火作ってみたんだよね」
「え、すごい!どんなの作ったの?」
「うん…、真白が興味あるなら、今日一緒にダイプレで花火打ち上げに行かない?」
気づかれてもおかしくないほど僕の心臓と耳は脈打ち熱くなっている。
「え、いいの?春来くんの花火楽しみ。」
何も気づかず喜ぶ真白の顔が可愛くて、僕の気持ちはクライマックスへと近づいた。
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真白と2人でリモコン特設ブースへ向かうと、そこは長蛇の列になっていた。
「すごいね、人…」少し緊張した面持ちでその列に並ぶ。緊張で一瞬無言になったが、それも束の間だった。海野や秋人の事や学校の行事、将来のことなど話題が尽きないくらいだった。笑い転げるくらい真白との会話は楽しくて、僕の緊張はどこかへ吹き飛んでいた。
真白との会話で時間を忘れ、待っていたはずの順番はあっという間に訪れた。
スマホからデータを転送し、準備ができるのを少し待つ。そのたった少しの時間さえ僕の鼓動を高めてくる。
準備完了。
あとは再生ボタンを押すだけだ。
「いくよ?」と、真白に声をかける。
「うん。」と真白は頷いた。
再生ボタンと同時に花火が打ち上がる。
細く高い音を鳴らして夜空へ上っていく花火。
ドーン!という大きな音とともに設定していた曲が流れ、夜空へ星の形をした花火が打ち上がった。
(目を閉じれば億千の星、一番光るお前がいる、初めて一途なれたよ、夜空へ響け愛の歌〜♪)
なんとも僕のキャラとは釣り合わないその歌が夜空に響く。いや、そんなのは構わない。僕はこの歌詞に惹かれたんだ。それを君に伝えたかったんだ。そして、その後もハートや指輪の形をした花火が次々と広がる。
「千冬ちゃんの事が好きです。僕と!…付き合ってください!」
僕はクライマックスの花束の花火が咲くと同時に真白へ想いを伝えた。緊張でいっぱいの僕は真白を見て言うことができなかった。
「…。」
返事が返ってこない。
これは…、やんわり断られたということか…
恐る恐る真白の方を見る。
真白は花束に続く花火に見とれていた。
それから真白が僕の方を向いて言った。
「凄いね!春来くん、こんな色々な花火が作れるんだね!」
真白は無邪気な笑顔で僕を見つめた。
「、、うん…ありがと、喜んでもらえたなら、良かった。」僕は少しぎこちなく微笑んだ。
そして、自分の中で一旦あの告白はなかったことにした。
僕はその後、到底2度目を言うことができず、僕の1度目の告白は花火とともに儚く散っていった。
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メインの小説は堪能されましたか。
この後にデザートでもいかがですか。
ということで、私がこれを書くに至った経緯や意図、その時の思いや感情などを知りたいと思った方はぜひ以下リンク先の『【デザート】今回ボツになったネタ。』を読んでみてください。
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