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ゴンちゃんとムースケ。【短編小説】

⚠️この小説には会話文は含まれておりません。
それを踏まえたうえで、お楽しみください。m(_ _)m


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 田舎の古びた建付けの悪い家。そこはゴンちゃんの家。田舎の子供たちには大人気のゴンちゃんの家。両親と祖父母のいるゴンちゃんの家。だけど、父さんは休みの日にたまに帰ってくるくらい。

 学校帰りや休みの日になるとみんなが集まって楽しそうに遊ぶ。裏山で虫を捕まえたり、泥団子を作ったり、メンコをしたり。

 そんなゴンちゃんの家の隙間から、ある日スズメバチが入ってくるようになった。これは一大事だ。ばぁちゃんも母ちゃんも困っている。ゴンちゃんの友達も危険だ。
 そこでゴンちゃん達は外から入ってくる蜂の巣を突き止めて退治することにした。ゴンちゃん達は蜂が危険だということは重々承知だったが、このままではいけんと思った。
 完全防備をして蜂の巣を退治した。帰ってくる頃には日が暮れていた。親たちが心配していて、友達の家の鬼爺おにじぃがたいそう怒っていた。鬼爺の言葉に泣き出す子もいた。

 しかし、僕らは僕らの世界を守るので必死だった。大人が誰も守ってくれなかったから。

 ゴンちゃんのじぃちゃんは申し訳なさそうに謝り背を丸めた。俺が早く退治せんかったから、そう自分を責めた。じぃちゃんはもう体も弱くて歩くのもやっとだった。それでも優しいじぃちゃんがみんな大好きだった。

 ある日、じぃちゃんが1日おらん日があった。どこ行ったんかいとみんな心配した。

 じぃちゃんは自分が嫌んなって山で1人死ぬことを決めていた。そこは家の裏山でそう遠くはなかった。杖がわりに持ってきた小さいクワで凸凹でこぼこした土を少しならした。じぃちゃんは土に還ろうと横になった。ならした土の隙間にはダンゴムシやら体を半分むしばまれながらかろうじて動くクワガタやら、よく分からん奇妙な虫が沢山いて、ビニールや新聞紙など色んなゴミが混じっていた。

 土神様つちがみさまが静かに怒った。人間の傲慢によってこの土地がけがされていく事に。

 その夜、土神様はじぃちゃんの命を静かに取り込んでいった。そして2メートルを超えるくらいの大きな怪物となった。その怪物は体全身を汚泥でおおっており、その中には虫やゴミが混ざって異様な悪臭を放っていた。

 翌日になり、じぃちゃんを心配して外に出ると裏山から怪物がおりてきていた。泥を引きずるようにズルズルと歩いて畑道を押し寄せてくる。ゴンちゃん達は驚いてみんなを呼んだ。家族も友達もみんな驚いて一緒に逃げるしかなかった。だけど、このままでは家も全部あの怪物に飲み込まれてしまう。ゴンちゃんはそう思った。

 ゴンちゃんは立ち向かった。とりあえず近くにあった物を思いっきり投げてみる。怪物にしっかりと当たったがまるで効かないようで、物はするりと怪物の中に取り込まれていった。
 ゴンちゃんは頭を抱えた。考えても答えなんて見つかず、手当たりしだい物を投げた。そして水入りのバケツが怪物に当たると、その水のかかった足の部分の泥が剥がれ落ちた。
 ゴンちゃんはコレだと思った。みんなになんでもいいからあの怪物に水をかけるように伝えた。みんなはホースやバケツ、水鉄砲などを使って怪物に水をかけていく。すると怪物の泥は崩れ落ちていき、キレイになくなった。

 そして、その中から朱色の小さな生き物が現れた。まるで小さなドラゴンのような体に、つるんとした朱色の肌と丸っこい顔、左右に1本ずつひょろりと伸びたヒゲ、そしてクリっとした可愛らしい目がこちらを見つめている。その辰っぽい何かはキレイになってからというもの、1度ブルブルと濡れた体を震わせ、今までとは打って変わって大人しくなった。
 ゴンちゃんがゆっくり近づく。そいつは小さな可愛らしい声で「ムー」と鳴いた。ゴンちゃんは少し構えたが、辰っぽい何かは変わらず「ムー」と鳴いている。ゴンちゃんがそっと手を伸ばすとそいつは嬉しそうに擦り寄ってきた。ゴンちゃんがすかさず両手で掴み持ち上げる。

 捕まえてみんなの元へ連れていくと、そいつはパタパタと背中についた小さな羽をバタつかせている。
 友達がたまごボーロを皿に入れて持ってきた。辰のっぽい何かに与えると美味しそうに食べている。そいつは何処へ帰るともなく、じぃちゃんを探すゴンちゃんについてまわった。

 しばらくすると、そいつはゴンちゃんをどこかへ案内するように、服の裾を引っ張り始めた。ゴンちゃんはそいつに導かれるようについて行った。
 辿り着いたのは裏山の奥まった所だった。そこには探してたじぃちゃんが横たわっていた。ゴンちゃんは急いで駆け寄って声をかけたがじぃちゃんはぴくりともせんかった。ゴンちゃんは慌てて母ちゃんの元へと走った。

 それからは母ちゃんがお巡りさんとか親戚とかに連絡をした。なんだかバタバタと慌ただしくする周りをゴンちゃんは、ただ見つめることしかできなかった。なにもしないまま時間だけが過ぎてった。
 じぃちゃんはやっぱり死んどったらしい。そうして通夜と葬式でじぃちゃんを弔った。

 ゴンちゃんは悲しかったけど、じぃちゃんが見つかって、ちゃんとじぃちゃんとお別れできて良かったとも思った。俯くゴンちゃんにそいつは寄り添ってずっと傍におった。
 ゴンちゃんは、そいつがじぃちゃんのことを知らせるためにゴンちゃんのもとに来たと思った。そして、ゴンちゃんはそいつを飼うことにした。呼びやすいように『ムースケ』と名付けた。

 それからというもの、ゴンちゃんとムースケはいつも一緒におった。友達も変わりなくムースケを仲間に入れてくれて、色々と可愛がってくれた。

 ムースケは小さいなりにも正義感の強い奴だった。道端でゴミやタバコを捨てたり、生き物を粗末に扱う人を見つけると、その小さい体を宙に浮かせては必死で体当たりして怒る。そんな必死なムースケを見習うようにゴンちゃんや友達も町に落ちているゴミや、山や海などのゴミを拾うことが増えた。

 こんなに落ちてるもんなんだな、と初めの頃は驚いた。目に付いていないだけで、拾えば溜まるゴミの山。ムースケが来てからというもの、以前に比べれば町はキレイになった。しかし、それでも手を止めればまたあの頃に戻るだろう。
 結局、キレイな町は一人一人の心がけに過ぎない。1度汚れた場所は勝手にキレイになることはない。それを維持してくれている誰かがキレイな町には必ずいるのだ。そして、自分がその誰かの一員でなくてはならない。そう思いながら、ゴンちゃんは今日もムースケとゴミを拾った。

 それから、ゴンちゃんの家は建付けの悪かった所を改装して、屋上を自然豊かな庭園にした。そこは子供達にとって夜でも安心して自然を感じ遊ぶことのできる場所となり、時には穏やかで誰にも汚されないゴンちゃんとムースケの憩い場所となった。




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メインの小説はどうでしたか。

この後にデザートでもいかがですか。

ということで、私がこれを書くに至った経緯や意図、その時の思いや感情などを知りたいと思った方はぜひ以下リンク先の『ゴンムーと夢の中。【デザート】』を読んでみてください。

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