インプロ(即興演劇)とアクティングアウトワークショップ
前々から気になっていた「インプロ」のこと、立教大学の舘野先生にちらっとインプロ研究会したいんですよって相談したところ、ババっと声をかけていただき、これまたインプロ的に集まれる人がその日、その場に集まって何のプログラムもなく開催していただきました。✨
なぜ私がここのところ俄かに「インプロ」に興味を持ち始めたのかといいますと、現在、私がUXワークショップ企画で専属している株式会社ビットデザインスタジオでは、UX(ユーザー経験)デザインを考える時に、身体をつくって演じながら思考する「アクティングアウト」という手法をワークショップで用いるからなんです。これは、かつて90年代にプレイフルラーニングでお馴染みの上田信行先生とジョン前田氏によって行われたコンピュータの中身を演じてみるという「Human powerd computer」のワークショップに端を発しています。この時はまだワークショップというものが世間にも浸透していない時、ここから経験のデザインとは何かがダイナミックに動きはじめた時代の感覚を覚えています。
で、UXデザインの中でアクティングアウトとやらは、具体的にどういったことをするかと言いますと、
ある製品が使われる状況やサービスのシーンをグループになって「こんなシーンでこんな風に使われるといいね」「こんなシーンだとこんな機能があるとうれしいな」など、即興でいろいろなペルソナになったり、時には製品そのものになりきって、演じながら企画やアイデアを 共 創していきます。
※アクティングアウトとは:
開発における「アクティングアウト」とは、製品の使用シーンやサービスシーンを「身体」を使って演じてみる中から、脳ではまだ意識化されていない感覚(無意識)に注目し、そこでの気づきを開発に活かしていく手法。
by MiyakeYuri ビットデザインスタジオパンフレットより
実際にやってみると、頭やデスクトップ上で考えていた時には思いもよらない、アイデアが身体感覚や空間感覚などによって創発的に生まれてくる経験をします。結構驚きです。しかし、問題は、やってみた人には目から鱗だったりするのですが、やってみないうちは、大抵の場合かなりの拒否反応がでます。台本もないシーンを企画をその場その場の思いつきで「いきなり演じてみる」ということに大変懐疑的であります。それもそうだと思います。怖いですよね。私自身、インプロのことは横目に知りつつも、なんか怖そうだし、まさに疑心暗鬼でなるべく避けるように過ごしてきました。
怖い気持ちもよくわかる私ですが、アクティングアウトの手法のパワフルさを経験してしまったら、もう虜でして。で、これをもっとみんなに理解してもらって、とにかくどうにかこうしか経験をしてもらいたい。そのためには、どうすれば最初の一歩のハードルを下げられるんだろう、、、、と。
そんな折、ふと手にとったのがこの本。やっとこのおもしろさに気づいた。おそ。
というわけで、この即興で演じることによるメリットや参加者のハードルを下げるということについて、がっつりとインプロの専門家の方々にお聞きして、プチ体験会をさせてもらうことに。園部 友里恵さん 野村 真之介さん 堀 光希さんは東京学芸大学の高尾隆先生の門下生で、インプロの創始者であるキースジョンストン氏の潮流としてインプロワークショップを多方面で開催している方々。そして上記の書籍の編集者でインプロのワークショップを多数経験されている石戸谷さんにもお越しいただきました。贅沢〜
予想を遥かに越えて濃密でワクワクする経験になったので、以下、忘れないように内省のために、研究会のご報告。というか、私のメモです。
★アクティングアウトと共通するインプロ(即興演劇)の考え方
お試しでインプロを体験する中で、アクティングアウトと共通する以下のような話が出てきました。
前頭葉によっていろいろ「考える」ことが得意になった人間は、ちょっと「頭」を過信しすぎているように思います。イメージ力は人間ならではの創造性ですが、もともとは身体と密接につながって発動しているもの。身体感覚から切り離された「イメージ」や「意識」は、逆に創造の障壁となっている。そんな話がバシバシと出てきて興奮しました。
・創造性はもともとある、壁(よく見られたいという意識)をとりのぞけば出てくる
・「考えてしまう」をとっぱらう(紙とペンはなし)
・未来への恐怖を取り除く ちゃんとしなくていい
・失敗をおそれない、失敗をオープンに楽しむ経験
・Give your partner a good time(相手にいい時間を与える)
以下は、書籍の中からのメモ
・スポンタナティ(spontanety)=ぱっと自動的に何かが思いつく状態
・意識(人)で無意識(馬)の関係
・変革の生態系を生み出す
・主体としての身体とモノとしての身体のズレ(リクレクションが起こりやすい)
・批判的内省(そもそもをゆさぶる)
・現象学的社会学(シュッツ)=見る人、視点が変れば現実もかわる「多元的現実論」
・社会構成主義(意味をみんなでつくっていく)バーガーとルックマン
大きな物語か=小さな物語がたくさんある世界へ
・身体という意志によってコントロールできないメディアを使うことで
→日常の権力関係を相対化する(=擬似的民主的な舞台)
★インプロやアクティングアウトがなぜ必要なのか(社会的な意義)
・ゆるやかな目的をその場その場で変更し、よくしていきながら進めるということが
理解されにくい (ゼロイチの発想になりがち)
・完成されていない、不確かなカケラを出すことを非常に恐れる人が多い。
・カケラを出さなければ、共創は生まれない。
・人は意識や頭で考えることを過信しすぎ、身体感覚が失われていることが問題
★恐怖心と懐疑心を取り除くためにできそうなインプロイントロワーク
アクティングアウトの話をして、その中でインプロのワークを取り入れるとすればどんなのがありますか?とたづねていろいろその場で体験させてもらいました。以下はその一部。
⚫️リヤーハンドホップラー
失敗を楽しむゲーム 厚盛ゲーム、さしすせそ禁止ゲームなどで 失敗した時に決め台詞「失敗しちゃった!」をオープン言う。 このセリフが違和感あって恥ずかしいという意見も。
⚫️魔法の箱1
魔法の箱から相手へのプレゼントを取り出して「〜をあげる」と言って渡す もらった相手は、そのプレゼントが受け取ってうれしいかどうか、素直な反応をかえす (気をつかわない、リアクションを素直に出すレッスン) 相手のリアクションから好きな好みの情報をあつめる。 何度か繰り返す ※注意 プレゼントというと、ありきたりなものを選ぶ人がいるので、 3回に1回は「これはない」というものをあえて言ってもらう
⚫️魔法の箱2
魔法の箱から取り出したものの形状は想像できるが、何かは言わない。 受け取った相手が、それは何かを答える 色やキラキラしてるなどのヒントはあり ※応用 箱から取り出す人が嫌そうな態度でわざとやると、 受け取って答える人もやりにくい。ということを体験
⚫️エニシングバット(見立て)
モノ(ペットボトルとか)を何かにみたてて演じる 順番にまわす
⚫️スチュエーションコメディ
例えば、冷蔵庫の前というシチュエーションだけ設定 ペルソナカードをランダムにひく ひいたペルソナでシーンを即興で演じてもらう ※ペルソナは事前にいくつか用意、参加者から追加で出してもらっても)
と、アクティングアウト(開発のワークショップ)用にアレンジ頭をひねってもらって即、その場でやってみる、考えるの繰り返し。さすがインプロの達人揃いとあって「ちょっとやってみよ〜」がとにかく軽い。笑
短時間にものすごく実りがありました。最後に、私が一番印象に残ったのは、インプロは自分のためにという気持ちではやらないという話。
私が、アクティングアウトは、自分のためではなく、開発が目的だからあまり恥ずかしくないけど、インプロは自分のためにやるから恥ずかしいんですよって話したら、インプロも実は自分のためではなく、一番大きな思想にGive your partner a good time「相手によい時間を与える」ということなんだということを聞いて、おおー、となりました。そう、自分に意識を向けないことで、自分が勝手につくった壁を取り除くことができる。
ここが一番のポイントかなと思います。学びは後からついてくる。大丈夫!というのが私の信条なので。
となんか勇気と確信をいただいて、とにかくパワー復活な1日でした。
GOOD TIME!
日時;2018年7月25日(16:00〜18:00)
場所:立教大学
集まった人:三宅由莉 舘野 泰一 石戸谷 直紀 園部 友里恵 野村 真之介 堀 光希
学びとデザインの世界を行き来しながら仕事しています。