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葡萄と檸檬と林檎

フランスのカルカッソンヌ(La cite de Carcassonne)という城壁都市へ行ったときのこと。
2500年の歴史があるというその塀に囲まれた古代都市は、今ではその内部はすっかり観光向けになっていて、そこにひとつだけあるホステルに泊まった。
レセプションに「日本語を勉強している。難しい漢字を覚えるのが好きだ」という男性スタッフがおり、「日本人か!それならば」とチェックインもそこそこに漢字のテストを出される。
書いてみろと言われた漢字は、葡萄、薔薇、檸檬、など、知っているけれど正確に書くにはちょいと難しいものばかり。
「読めるしぼんやりとこんなやつだよね?なのはわかるが、正確に書くのは無理」というと、彼は得意げに手元の紙にそれらの漢字を書きつけた。アルファベット言語出身の日本語学習者にありがちな、なんだかとっちらかった漢字ではなく、いや、日本人でもそういう字の人もいるが、彼の書く漢字は形を成していた。
どうやってそれらの漢字を覚えたのか?と問うと、「たとえば葡萄は、ぶどうが棚になっているイメージをもとに覚えるのだ。檸檬や林檎も同じだ。」という。
「なるほどね」
たしかに“葡萄”はその房が棚になっている様子がしなくもないが、檸檬や林檎が木になっているイメージと、それらの漢字を彼の中でどうひもづけているのかは謎のまままである。
日本人としてどの漢字も書けなかったのはちょっと悔しかったので、鬱蒼という漢字を書いて見せると、「これはいい!ぜひ覚えたい!」と、早速書き取り練習をし始めた。
あの彼は今は何をしているのだろう?
 
このCiteは最寄駅から少し離れたところにあり、行きはその城壁の入口までバスを利用した。
到着した日にそのバスストップの時刻表をチェックすると、日曜日の便の記載がない。というのも出発日が日曜であったため、何時のバスがあるか知りたかったのだが。
Touriste Informationで「駅までのバスが日曜にはありますか?」と、つたないフランス語で受付の女性に聞くと、彼女は手でOKサイン出し笑顔を見せてくれる。と思ったら、「あ、でも、日曜のバスはないわ」とのこと。どうやら私のフランス語に対して、「あらちゃんとしたフランス語になってるわ」的にOKサインを出してくれたみたいだ。
そのために出発日を変更するわけにもいかず、しかたなく荷物を引いて駅まで歩いた。

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