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Interview with YUTARO KANEKO(STRAM/Vo&Gt)

2020年6月24日、1st album『All Happy』をリリースする東京のSTRAMにインタビューをしました。ポストパンクと思いきや、70'sクラシックロックやドゥーム/ストーナー、2000年代以降のUKロック、インディロックまで幅広い音楽的背景を横断しながらもそのアウトプットはあくまでSTRAMというバンドとしての軸に現代的なセンスでまとめられている混沌と美しさがある。彼らには特定ジャンルに寄りかかるような姿勢はなく、かと言って難解さや博識さをひけらかすでもなく、ロックンロールなほのめかしに溢れている。ときおり感じる野心的な試みも含めてこのバンドに興味が湧いたので、YUTARO KANEKO(Vo&Gt)に聞きたいことを聞いてみました。このインタビューは何かを答え合わせするためのものじゃありません。このバンドへの興味を次につなげるような鍵として機能してくれたら嬉しいです。

「あくまで僕らを定義するならばドゥームやストーナーの流れを汲んだバンドの延長線上、といった感じ」

3LA: アルバム全編聴かせてもらいました。先行でカットしている「Sinister Gallary」以外の楽曲群のバリエーションも幅広くてかなり面白い仕上がりになっているかと思います。元々ネットの情報だけ先に見ていたのでSTRAMは70’s~80'sUK的なポストパンクバンドだと思っていたんですけど、アルバム1曲目の「Sinister Gallary」が予想外に"リフもの"のロックンロール感があったのですごくよかったです。

YUTARO KANEKO: ありがとうございます。60~70’sのハードロックが根底にありまして、そういった意味で”リフもの”というのを強く意識しています。ポストパンクについては、僕らの大事な構成要素の1つであることは間違いないです。ですが影響を受けた部分はやや限定的ですし、ポストパンク的なカテゴライズにあまり自覚的じゃありません。

3LA: 僕はロックについては引用元とか結構気になってしまうんですが、STRAMの音楽を構成する要素はかなり幅広いと感じます。ポストパンクだけでなく80'sオルタナ~グランジへの方向性が見えたとおもったら、パンク以前のMC5やStoogiesの要素も見え隠れするし、現行の2000年代以降のUS/UKインディロックの系譜も踏まえている音にも感じる。こうなってくると非常に混沌としてくるし僕的には「ポストパンクって何?」って感じに思ってしまうんですが、STRAMはバンドとして自分達の音をどのように定義していますか?もしくは定義していませんか?

YUTARO KANEKO: 定義というと難しいんですが、ある程度の幅を取った中にポジショニングしているような気持ちはあります。そもそもメンバーそれぞれ好みの音楽も加入のタイミングもバラバラで、「こういうのやろう」って集まった訳ではないんです。だけど何も核がないかというとそうではなくて、大体USグランジ・オルタナシーン周りの音像は基板にあります。その中でも特にQueens of the Stone AgeやMelvins等にはとても影響を受けました。そこを土台にしつつ、軽すぎずクサくないラインを意識してます。前述したバンドの曲ですらあまりハードロック然としたマッチョなものは好きじゃないので、自分達の心地よいバランスは気にしてます。それと同時に指向してるのはより硬くてエッジーで、知性を持った曲です。インダストリアルは元々好きだったんですが、ポストパンクに影響を受けたのはそこから遡った感じです。WIREやThe Wake、Killing JokeやThe Cramps等のサイコビリーも重要なエッセンスです。ですがこれらは今のところあくまで要素という認識でして、ゴスやポストパンクの持つ怪しさや不気味さというトータルの雰囲気に影響を受けた側面が強いです。ご指摘の通り60’s後半のガレージ〜パンクや00’sリバイバル、他にもNYノーウェイヴシーンやらUKハードコアパンクやら節操なく色々摘んでますが、あくまで僕らを定義するならばドゥームやストーナーの流れを汲んだバンドの延長線上、といった感じでしょうか。

3LA: 自身の音楽的背景について聞かせてください。最初に音楽に衝撃を受けたきっかけは?そしてバンド活動を志向したきっかけは何だったのでしょうか?
同世代で音楽趣味が合う人たちと交流できる環境はありましたか?
そして現メンバーはどうやって集まったのか。メンバーの変化によりどのような音楽的な更新を感じましたか?

YUTARO KANEKO: 僕の最初の衝撃は中学の時聴いたBad Religionの「American Jesus」で、NOFXやRancidなんかもよく聴いてましたね。中でもSwingin’ UttersやSocial Distortionとかオールドスクールなバンドはすごく好きで、高校の時はそういうちょっとミドルテンポめのパンクバンドをドラムボーカルでやってました。僕のロックンロール観はここで形成されましたね。けどなんか遠からずも近からずだなとずっと思ってたんですが、Blurの「Song 2」を聴いた時にこの感じだ、って思ったんですよね。後々聴いていったらあんな曲はBlurにもブリットポップにもなくてガッカリした記憶があります。そうやって色々音楽を聴いていく中で、幼い頃父に聴かされていたDeep PurpleやCream、Black Sabbath等を改めて聴いてみると発見があって、漠然とバックボーンはこれだと実感しました。そういう自分の核に接近するべく、その時やってたバンドを解散して高校の友人2人と今のSTRAMを始めました。

3LA: 時系列があったほうがわかりやすいと思いますので、このSTRAMが始まったのは何年くらいの話でしょう?始めた時からバンド名はSTRAMですか?

YUTARO KANEKO: 2016年の5,6月ですね。始めた頃からSTRAMでした。2017年の終わり頃に一度ギターとドラムが変わり、それから1年後にもう1度ギターが変わり、今の形態になったのは半年前くらいです。

中・高は詳しい人ばかりで割と音楽の話ができる環境だったんですが、大学に入った当初はそうではなかったので、最初に所属した軽音サークルの先輩で丁度探してたベースの藤井さんを雰囲気がよかったのですぐ誘いました。今も一緒にやってるのは彼だけですね。僕自身あまり固まらない内にバンドを始めたというのもあって、当初はイギリスのDrengeやDARLIA、アメリカだとSunflower Beanみたいなのやってました。今よりちょっとアートっぽいというか。1stのEPを出す2018年までに音楽性がグッと変わってその流れでメンバーも変わりました。メンバーは音楽性というよりその都度カッコいいと思う人達を誘ってて、現メンバーも演奏がカッコいいとかそういう意味合いが強いですね。ドラムの輝羅々とギターの田頭もサークルの同期・後輩なんですが、好きな音楽がそんなに似てないので擦り合わせは苦労してますが上手くコミットしつつやってます。特に田頭が入ったことでバンドサウンドがある程度固まった感じはありますね、適切な音を出してくれるというか。僕等がそれまで踏み出さなかったけど抱えていた表現をより際立たせてくれたように思います。

3LA: ちょっと話が逸れるんですが、アメリカのバンドよりもイギリスのバンドのほうが肌に合うような感覚ってありますか?この話の流れを聞いてみると、Bad Religion等のアメリカのバンドから、クラシックなイギリスのハードロックへという移り変わりが見えるのです。Sunflower Beanはアメリカのバンドですけど音楽性としては結構英国感のあるバンドだと思ってます。マッチョなものを好きじゃないって話と通じてくるのかもしれないですけど。

YUTARO KANEKO: そうですね、どちらかというと所謂UK、またはUKっぽいバンドが好きですね。ただ僕もそこを盲信してやってきたんですが、作曲の上で強く影響を及ぼしてるのはどうやらアメリカのバンドだなとも思います。そういう意味だと、QotSAのジョシュがプロデュースしたArctic Monkeysのサード(『Humbug』)はアメリカとイギリスがミックスされてて、指針でもありますね。

「最初は当時のインディシーンを意識してたんです。ですがなんだか猿真似に終始しているような気がして」

3LA: 数々の引用元を引き寄せながらも最終的なアウトプットを"この音色"で演奏していることもポイントだなと思っています。かなり暴力的というか、獣感というか、破壊衝動を感じる音だけど、逆にリスナーを遠ざけている面もあると思いませんか?今現行の海外インディ/ポストパンク(それこそBig Love Recordsでかかっていそうな)でも音自体は結構聞きやすいというか洗練されているのがトレンドに見えるけど逆をいっていると思います。

YUTARO KANEKO: このアルバムに関して言えば、自分達を定義するための指針にするという意図があって凄く背景に忠実でピュアだと感じてます。とにかくやれる範囲で色々やるという意識が強かったというか、どうバックボーンをまとめ上げるかという思考の中で、自然とこの音にまとまりました。そんな中現行のインディ/ポストパンクシーンと共振しようという余裕もなくて、まずは立ち位置を表明して客観的に見てみようという。正直な話、現行の先程言ったようなシーンに接近する気もないんです。あの辺のジャンルは一発で分かる雰囲気とか音とかが魅力だと思っていて、今そこに迂闊に近づくとやりたいことが制限される気もするんです。僕等はその括りに入っていこうとしていない以上、あまり気にしてないんですが「リスナーを遠ざけている」という意見は否定できないので、そこは模索していこうと思います。目指すべきところはあるんですが、必ずしもそこに向かっていく必要はないと感じているのでバンドを通しても作品を通しても常にアウトプットのフットワークは軽くいたいと思います。

3LA: なるほど。「今そこに迂闊に近づくとやりたいことが制限される気もする」っていうのは、これは新しい視点でした。お聞きしたバンドやジャンルの音楽はSTRAMのメンバーにとってリアルタイムなものではない気がしていて、それはどうしてなのかなって思っていました。例えば現在進行形のシーンよりも、過去の時代の音楽のほうがより自分にフィットする感覚があったということですか?音の背景の豊富さ、自由さともリンクする話かもしれません。

YUTARO KANEKO: 先程も触れましたが、最初は当時のインディシーンを意識してたんです。ですがなんだか猿真似に終始しているような気がして、自分の好きな音楽は何か、それはどういった文脈に位置するグループなのかを煮詰める作業を行いつつ進んでいったら、今のサウンドに流れ着きました。おっしゃる通り全くリアルタイムではないんですが、現行のものは遡って再解釈したいという気持ちの方が強いので割と懐古的ですね。あと今の音、昔の音っていうのはあまり考えてなくて、割と並列に考えてる節があります。結構「今のサウンド」というのに固執してるバンドも多いとも思うんですが、その辺は勝手に現れるもんじゃないかな、程度に考えてます。僕らのやってる音楽を聴いて20年前の音楽と勘違いする人はいないと思うんですよね。今やってるんだから今のバンドで、意味合いは後付けで固まってくるもんだし、仮に昔のバンドだと勘違いされたとしてもそれはそれで問題ないんです。

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「ウルトラQが凄く好き」

3LA: 実は音楽以外の影響にも興味があります。アートワークや歌詞から連想する別の何か等。歌詞からの受けた印象。音と歌詞とビジュアル、それぞれから広がる文脈が豊富なのがSTRAMのバンドの魅力な気がしている。ちょっとした要素を、意図的に散りばめている、ということはありますか?たとえばSinister Gallaryの歌詞、Tony Benji Andy Brandon...って一見何のことかわからないけど、人名だとすると共通するのは画家ですよね?最初はTony...トニーと言ったらトニースタークか?なんて思ったりしたけれどこの文脈でそれは無さそうだなと。

YUTARO KANEKO: 僕はウルトラQが凄く好きで、漠然とホラーな雰囲気を持つ作品に惹かれているんです。その上でロシアアヴァンギャルド、プロレタリア文化は影響を受けてますね。これは元々好きなビジュアルイメージから遡って辿り着いたもので、いわば肉付けなのでもっと深化させたいと思っていますが。「ちょっとした要素をー」というお話は正にその通りで、色んなものがごった煮になってます。そこがいいのか悪いのかは今後判断していこうかなと思ってます。歌詞に関しては基本的に内的な吐露が多く、その上でキーになるような言葉を印象的にしたりしなかったりしてます。Sinister Galleryに関して言えばTonyーの件は特定の誰かというわけではなく、具体的な人名を入れた方が不気味さが出るなと思ったんです。僕には固有名詞に関して気になるものと気にならないものの基準があって、単純にいうとあまりダサくならないよう気を遣って書きました。つまり何かの引用とかではないんですよね。アルバム6曲目のGilles de Raisは逆に、ジル・ド・レというフランス貴族を引用してます。

3LA: アルバムのレコーディング、ミックス、マスタリングには澁谷亮(Klan Aileen)さんが担当されているとのことでしたが、音の面ではどのような影響がありましたか?印象的なエピソードがあったら教えてください。

YUTARO KANEKO: 元々Klan Aileenの音が好きだったというのもあって、澁谷さんにはある程度好きにミックスしてもらいました。ただ他でやったらこうはならないなっていうある種飛び道具的な音や、出したいインディ的なところを汲み取ってやっていただいてるかなと思うので、そこは凄くよかったなというところです。去年出した2枚目のシングルもやってもらったんですが、前回よりもラフになったかなとは思ってます。ギターソロがピンク・フロイドのギルモアみたいだねと言われたのは、面白かったですね。

ファーストEPを出した時は所謂レコスタを抑えてエンジニアさんにやっていただいたんですが、基本的に言ったことを全てやってもらえるしこちらに何かアドバイスを貰えるって感じではなかったんです。僕らの浅い経験では判断つかないことがあったり、面白いと思ってる音を試したりができなかったところは気になっていたところで。勿論言えば何か返ってきたとは思うんですが、当時の僕らでは言うに至らなかったんです、時間もなかったし。ただ澁谷さんはその辺かなり突っ込んだことも言ってくれたりしたので、距離感近くやれたというのはすごくありがたかったですね。

3LA: 今のシーンや世代的なものって意識しますか?

YUTARO KANEKO: 興味の範疇ではないところも意識はしてます。実際メンバーともそういう話はしてますが、いざ曲を作る時参考にするかというとあまりしてないですね。世代的なことを言えば、最近同世代にポストパンクやガレージの要素を持ったバンドが増えているので、大きな括りでまとまって盛り上がれれば面白いなとは思ってますね。2010年頃にも海外でのリバイバルに対するリアルタイムなリアクションが日本でもあったと思うんですが、今回に限ってはそこまで共振的な意味合いもなく各々音楽性的にまとまりそうじゃないのがいいなと思ってます。

3LA: 2010年頃と2020年の今での違いはなんだと思いますか?これは答えのない問いなので、どう感じているかで構いません。

YUTARO KANEKO: 2010年頃は中学生だったので何とも言えませんが、単純に今の方がニッチな表現をしてるバンドが多い気がしますね。メインストリームへのカウンター云々という文脈は消えて、ある種開き直りのようにも見えます。

3LA: 音楽ってどういう瞬間がいちばん興奮しますか?

YUTARO KANEKO: 自分が生み出したものにリアクションが来たときはやはり嬉しいですが、僕らはあんまりライブが強烈に好きなわけではないので、音楽の話をしているときが1番興奮するかもしれません。メンバー間ではBoningenのライブの始まりがこうだったとか、Skull DefektsのMVがやる気ないとかそういう話をしてるときが1番ボルテージ高いかもしれないです。


3LA: 前半部に回答していただいた内容とつながっていると思うんですが、「フットワーク」というキーワードなのかなと。「ライブが強烈に好きなわけではない」というのは、ライブよりも作品を重視したいですか?

YUTARO KANEKO: ライブより作品を重視したいという訳ではないです。作品を出すスパンって若手のバンドではそこまで大きく変わらないと思うんですが、ライブの本数は結構違う気がしていて。その辺僕らはライブを制限しているので、一個一個が気持ち的に重いんです。なのでフットワークという意味では、作品を作ってる方が楽ってことかもしれないですね。

3LA: 最後の質問になりますが、今まだまだ音楽シーンは動きが制限されている中ですが、これからの計画があれば教えてください。

YUTARO KANEKO: 今回のコロナ禍は、当初僕が想定していたよりも大変な事態になってしまいました。なのでもう少し様子をみようと思います。今後あらゆるものが変化を強いられる事は間違い無いので、サポート出来るところはサポートしつつ、じっくり考えようかと思ってます。

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STRAM

NAOKI DENDO(Gt.)、YUTARO KANEKO(Vo./Gt.)、TOSHIKI FUJII(Ba.)、KIRARA ORIMO(Dr.)
stramband.tumblr.com
https://stramjp.bandcamp.com/album/all-happy
1st album 『All Happy』を2020年6月24日(水) にリリース

3LA販売ページ: http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=1984

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インタビュー記事はここまでになります。======================================

STRAMというバンドから連絡がきてアルバムを入荷することになった。
いまの世の中の情勢でアルバムを作って出していくようなバンドが好きだ。でもどんなバンドなんだろって思って検索したら「ポストパンク」と書いてあったのに聞いてみたらGUEVNNAにも通じるストーナーロック感(もちろん彼らのそれとは趣向がまったく違うのだが)それでいて近年のインディーロック勢のような現代の感覚もあわせもっていて、その違和感が気になった。大事なのは自分の感覚にジャストでフィットするような感覚よりも違和感のほうだと思う。日に日に古いものになっていく自分の感覚を既知のものとして、僕は新しい物事に触れ合っていたいし、その場所に身を置いていたい。自分が10代、20代のときのような刺激を受けることはこれから先も難しいとは思いつつも、いま起きていること、今作られている音楽、そこにきちんと向かい合いたい。90年代がいつまでも最高だとは思わない。でも90年代は特別な時間だったと思う。2000年代は自分にとっての青春だった。わけわからんと思ってた2010年は、2019年に全てをひっくり返し重要な意味を持つ年になった。すべては自分次第だった。いまが最高だなんて無理やり主張する必要はない。ただ生きているのが今だってことだけ。欲望や野心やどうしようもない執着心にまみれたロックンロールが聴きたい。

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