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俺らの敗因、つーか勝因!3

3.

2月に入り、日向の成績も志望校の合格圏に安定して入るようになっていた。
それで俺は年末から気になって堪らなかった疑問を日向にぶつけてみることにした。
「なあ、日向」
「ん?」
日向があんまり無邪気な様子なので、次の言葉を俺は躊躇う。次の言葉は確実に日向を傷つけるだろうから。
「じつは、蔦子さんから妙なLINEをもらったんだ」

蔦子さんの独白

日向からの告白はどうだった? びっくりしたでしょう? あの子はずっと拓のことが好きだったのよ。
どう答えたかしら? 拒絶した? それとも受け入れた?

いずれにせよ、あなたに言っておくことがある。
日向は私のものよ。
今も昔もこれからもずっと永遠に私のものよ。
私のものよ。
日向をあんなに素直ないい子に育てあげたのは私だし。日向がどんなふうに感じるのか、どんなふうに喘ぐのか知ってるのは、私よ。私だけよ。
あなたは日向に告白されて、有頂天かもしれない。だけど、日向はとっくの昔から私のものよ。
もう一度言っておくわ。
日向は私のものよ。
日向は私のものよ。

日向はiPhoneを見るなり、絶句した。
「動画も届いた」
俺の言葉は日向に追い討ちをかけた。

長い沈黙――……。

やがて、掠れた声を日向は出した。
「母さんは変なんだ。『やめて』って何度も頼んだ。――でも……! み~たん、俺を軽蔑していいよ」
「しないよ」
反射的に俺は云ったけれど、日向には届いていないみたいだった。
それで、俺は日向の肩を掴んで揺さぶった。
「日向、日向、俺を見て、」
「み~たん……?」
日向のふしぎな色合いの眸は硝子玉のように虚ろだ。
「俺は日向を軽蔑したりしない。蔦子さんが日向になにをしてようと。日向は悪くないだろ。蔦子さんのことは心底軽蔑するけどな」
「……み~たん、」
「ん?」
「抱きしめさせて」
「ああ、こんな時に気を遣うなよ、」
云うやいなや、日向に引き寄せられた。
日向は僅かに震えていた。その胸中を慮り、俺の胸は痛んだ。
「み~たん、触っても良い?」
「ん、」
日向が掠れた声で訊き、俺はどきどきしながらコクリと首肯(うなず)いた。

日向の手が俺の下半身をまさぐる。はじめはおずおずと、次第に大胆になってゆく愛撫に、浮きかけた俺の腰を日向が固定する。逃げ場を失った快感がとぐろを巻くように俺を駆け昇る。
「……はっ……あっ、ひな」
「いいよ、み~たん……もっと啼いて」
「ばっ、か」
「俺に寄り掛かっていいから、ちから抜いて」

日向が蔦子さんを刺したのは、その夜のことだった。

泣きじゃくる日向からの電話を受け、俺は両親を連れて、黒川家に赴いた。
両親の対応は完璧だった。
蔦子さんを知り合いの医院に運び、警察には通報しないように要請した。
幸い、蔦子さんは軽傷だったこともあって、日向は警察のご厄介にならずに済んだ。

怪我の回復を待って、蔦子さんはウィーンに旅立って行った。ピアノ留学との名目だ。
日向は麻生家に身を寄せた。

そうこうするうちに3月の受験はあっという間に終わり、俺らはともに、合格を勝ち取った。

そして、その夜――……。
俺らは、はじめて一線を越えた。

はじめては思ったよりもこわくなかったけれど、計算違いがひとつ。
俺が日向を抱くのではなくて、日向が俺を抱いたこと。
つまり俺が〈受〉だったこと。
「こう云うのは、気持ちが強いほうが勝つんだよ!」
日向は嘯き、鮮やかに微笑んだ。
ま、いっか――……。

(了)



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