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『おおきなかぶ』

普段絵本を読まない、絵本を全く知らないという方でも、このお話は記憶の片隅にあるのではないでしょうか。

国語の教科書の定番でもあるロシアの民話。
絵本で読んだ、幼稚園の劇でやった、学校で習ったなど、様々な形で記憶されているストーリーだと思います。

そうした側面もあるからか、この絵本の意図するところが「みんなで力を合わせたら何でもできる!」といったメッセージだと思われがちでもあります。
ですが、この絵本を絵本として隅々まで読むと、とてつもないナンセンスなコメディであることが伺えます。

絵が物語るおもしろさ


絵本から飛び出す程のおおきなかぶができて、親指を立てて喜ぶおじいさん。
そんなおじいさんだけ追っていくと、喜怒哀楽を全身で表していることがわかり、思わず笑ってしまいます。

いぬやねこ、ねずみの関係性を想像しておかしがったり、画面から飛び出すほど大きなかぶに拍手喝采してみたり。
色眼鏡を外して読んだら、なんとも面白いユーモアで溢れた一冊であることがわかります。

我が子達もこの絵本を読む時は、おじいさんの行動を見てゲラゲラ笑いながら楽しんでいます。

元々寒い地域のロシアでは、外に出ることの難しい寒い冬の時期、こうしたナンセンスなユーモア溢れるお話を大人から聞いて楽しんでいたそう。
「教材」としてのお話とはまた別に、「絵本」としてこのお話を思いっきり楽しんで欲しいと思います。

絵と言葉の調和


また、言葉の使い方もとても秀逸。
この絵本に出てくる「とてつもなく」という語彙も、恐らく子ども達は初めて出会う言葉だと思います。

あまい げんきのよい
とてつもなく おおきい
かぶが できました。
『おおきなかぶ』福音館書店

一見難しい言葉なので、子ども達に伝わりやすい様に「とっても」など易しい言葉に言い換えたほうがいいのでは?とも思われがちです。
ですが、子ども達はこの言葉の意味を、絵本に入りきらないほどの大きなかぶから想像することができます。

勿論、辞書に載っている様な意味を即座に理解するかと言えばそうではない。
ですが、この絵で表現されているのが「とてつもない」ということなんだと、朧げながらも感じられたらそれで十分。

言い換えてしまったら、子ども達が新しい言葉と出会う瞬間を邪魔してしまうことになる。
この絵本の絵は、ちゃんと言葉の意味も物語も表現してくれています。
そうした絵本の持つ力を信じて、できる限り描かれている言葉はそのまま子ども達に伝えてあげたいと思います。

ストーリ展開はシンプルな繰り返しで、初めて読む物語としても適切な1冊です。
「うんとこしょ どっこいしょ」の日本語の響きも併せて、楽しんでください。

『おおきなかぶ』
A.トルストイ 再話
内田莉莎子 訳
佐藤忠良 画
福音館書店 1966/06

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