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長編小説『大地の子』を漫画に!(小説コミカライズ)

■「あなたが日本人だと解っていたら、愛など抱かなかった、許せないわ」

この海の向こうにある日本、日本人とはさほどにまで卑しく、罪業を負った民族なのだろうか――。

これは日本を代表する作家・山崎豊子さん小説『大地の子』の一節です。

1987年5月号から1991年4月号まで月刊文藝春秋で連載された本作は、終戦後に中国に取り残された子どもたち、いわゆる“中国残留孤児”の半生を描いた大河小説

日本人であることを恥と教えられ、必死で中国人らしく生きようとした主人公は、二つの祖国の間で悩み苦しみながら成長をしていきます。ドラマ化もされたので、映像を通して作品を知ったという方もいらっしゃるかもしれません。

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現在、文藝春秋digitalさん|note にて、漫画家のかんようこさんによるコミカライズ作品が公開されていますが、先日22話が公開されちょうど折り返し地点にきました!

<かんようこ> 漫画家、イラストレーター。主な作品に『NEW世界の歴史12 冷戦と冷戦後の世界』(学研プラス)、『マンガでわかる! 人工知能 AIは人間に何をもたらすのか』(SBクリエイティブ)、『まんがでわかる ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館)他。

上記コミカライズのシナリオを担当させていただいている関係もあり、今回は作品のご紹介を兼ねてマンガ『大地の子』の魅力小説のコミカライズ手順(我流)について、簡単にお話させてください。

1.まずはあらすじ

1966年、毛沢東による文化大革命の嵐が吹き荒れる中、一人の男性が冤罪をかけられ壇上に立たされていた。彼の名は陸一心

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日本の戦争孤児として中国で育った一心は、小日本鬼子と蔑まれながらも、優しい中国人養父の下で高い教育を受けて育つ。

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その出自からスパイ容疑をかけられ、内蒙古の矯正施設に送られた一心だったが、あることがきっかけで製鉄所建設という中国の威信をかけた国家プロジェクトに携わることに。

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技術支援を行うのは、彼を棄てたもうひとつの祖国である、日本の企業だった――。

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詳細については本編に譲りますが、ざっというとこんな感じです。

次に(他ではあまり見かけない?)小説のコミカライズの手順について簡単にご紹介していきます。

2.Let's コミカライズ!(我流)

業界的には、小説を再構成せずにそのまま漫画にしていくとすると、大体、小説1ページにつき漫画2ページくらいになると言われています。本作の場合1500ページくらいあるので、まともに漫画にしたら3000ページ!

それは色々(予算とか時間とか)問題がありそうなので、まずは最低限、漫画として成り立つようにするなら、全何話になるかを考えることになりました。

①章割

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いま手元に3巻4巻しかなかったのですが、こんなふうに小説へ直にペタペタ付箋を貼り、番号を書いていきます。結果、44話でいけそうかなと判明。


②管理票をつくる

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次に、管理票をつくりました(見づらくてすみません)。通常はここまでやらないのですが、本件はとにかく原作が膨大な量。製作中に迷子にならないよう、各話のあらすじ原作の対応ページのほか、特に漫画で重要なラストシーンの案をまとめています。

③資料集め

漫画と小説のもっとも大きな違いは「絵」で表現をすること。以前、角川さんの日本の歴史の制作をお手伝いさせてもらったのですが、そのときに歴史作品における画像資料の大切さが身にしみたので……今回は書籍やビデオなど事前にできるだけ準備しました。

ちなみに、80年代の中国資料で意外に役立ったのが、Richard Nixon Presidential Library and Museum の動画でした。便利な時代ですね。


④シナリオ
さて下準備の整ったところでシナリオです。1話が25ページだったら、大体3エピソード入れて山場をつくればいい感じにおさまるので、該当箇所の小説を何度も読み返して

・3つエピソードを抜き出す
・どれをメインにするか決める
・ラストシーンを考える

と構成を決めます。

シナリオは漫画家さんによって書き方を変えることが多いのですが、長くなるのでそちらはまた別の機会に。


⑤ネーム

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漫画における「ネーム」とは、コマ割りやセリフがわかるラフ書きのことです。やり始めて気付いたんですが…本作はとにかく1巻の最初にものすごく情報が詰め込まれていたため、1話については特に6回以上ネームの切り直しをしてもらいました。かんさん、本当にありがとうございました!!ネームが固まったら、ペン入れやベタ、トーン貼りなどの作業に移ります。


⑥原稿完成(+写植)

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そして完成した原稿がこちら。すばらしい!すばらしいですね!!

以降は③~⑥の無限ループです。かなり短縮してしまいましたが、いつかぜひ ⑤ネーム ⑥完成 についても、もっと詳しくご紹介させてください。

隔週を基本に掲載されているので、月50ページ歴史の漫画をやるって、本当に本当に相当大変なこと。ご担当いただいている漫画家のかんさんが、このクオリティを維持されているのは、さすがとしか言いようがありません。

全体的に我流で恐縮ですが、『大地の子』のコミカライズ制作の裏側は、こんな感じです。

3.推しキャラ ベスト3

最後に、『大地の子』で個人的に好きなキャラです。たぶん読んでる人の大半が「誰?」って感じだと思いますが、あまり気にしないでください。

第3位 東洋製鉄 斉木社長

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いわゆるイケオジですね。好きなポイントは「闘志」

社長に就任したばかりの斉木社長は、中国での製鉄所建設が自分の事業であることを、社内や中国側に知らしめようと奮闘します。そんなギラギラ燃える闘志が気に入っています。

第2位 一心の初恋 趙丹青

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若干のネタバレですが、主人公の初カノである彼女。好きなポイントは「横暴」。

勝ち気なお嬢様キャラの彼女は、プライドが高く、なかなか横暴な言動を繰り返します。本記事の冒頭で紹介したセリフも、丹青の言葉。それでも、いつも自分の欲望に忠実な彼女が好き…。なお、彼女はお話が進むにつれて、再登場して華を添えるので、ぜひお見逃しなく!


第1位 キング・オブ・義父 陸徳志

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この人を置いて、他にいません。好きなポイントは「愛情」。

日本人の一心を引き取ってきたことで、かなりの苦労を背負い込むことになった陸先生。しかし、一度だって息子に恨み言を言ったことなどありません。それどころか、どんなに苦しいときも、ただひたすらに真っ直ぐ一心を愛し続けます。その姿は、血の繋がりも国籍も関係なく、人が人を愛することがどれだけ尊いことかを教えてくれます。

4.まとめ

ちょっと長くなってしまったのですが…いかがだったでしょうか?

大きな歴史のうねりに飲み込まれた主人公は、二つの祖国に翻弄され、悩み苦しみ、それでも懸命に自らの生き方を探し続けます。その姿は、現代を生きる私達に「国とは何か」「生きるとは何か」という命題を突きつけてきます。

混迷する今だからこそ、世代を超えた多くの方に読んでいただきたい『大地の子』。文藝春秋digitalさん|note では1~3話+最新話が無料公開中です。ぜひこの機会に、山崎文学に触れてみてください!

※ビュワーの反応が若干遅いですが、開いて少し待てば見れるようになります!

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※記事の内容が分かりづらいかも、とご指摘をいただき、タイトル変更しました。大変失礼いたしました。(21/3/29)


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