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はじめてのチュウ

今日放課後に図書館に行ってくれる?


突然クラスメイトの男子に言われた私は
当たり前に「何で?」と訊いた。


後輩の坂下が話があるんだって。


その言葉を深く取らず
何を意味するかも考えず
ふーんといって私は放課後に図書館に行く
選択をした。


言われた時間より少し前に私は図書館に行って
頭に入るか入らないかわからない
微妙な感覚で適当に手にした本を
読んでいるように眺めていた。


これから何が起きるんだろうか?
わかるようなわからないような
期待と不安が入り混じって
目の前がぐるぐるした。


パラパラと本をめくっていたら
背後から声をかけられた。


三葉さん


私は振り向いた。


背が高くて髪の毛が少し長く
色が浅黒くて明らかに
放課後に運動をしている体をした男の子がそこに立っていた。


あ、はい。


私は返事をした。


坂下くんと聞かされていた男の子は
私の隣の椅子に座って
じっと私の顔を眺めていた。


これは一体何の時間なんだろうかと
戸惑っていたら坂下くんは私に話しかけてきた。


あの、いつも電車で見かけていて
気になってました。


誰も私など見ていない、気づいていないと思っていたのに
まさか通学途中に知らない男の子に見られていたことが
急に事実として浮かび上がって
何とも言えない恥ずかしさが私を襲った。


え、あぁ、そうなんだ。


返事するのがやっとで
私は今すぐにでも帰りたい気持ちになった。


その後坂下くんは
色々と自分のことを話し、私のことを訊いてきた。


最近流行っているあの曲が好きだということや
今度そのCDを貸してくれること
今気になっているTシャツの柄や
好きなサッカー選手のことなんかも。


部活の時間だからと坂下くんは
1時間ほど話して
また話したいと言って去っていった。


あぁ、彼は私が好きなんだと
理解するのにすごく時間がかかった。


こんなにあからさまに
人に好かれるという経験は
初めてで、私はどうしていいかわからなかったが
悪い気はしなかった。


その日を境に坂下くんと私は
よく話すようになった。


放課後どちらかがどちらかの教室に行って
ただ話をするという時間も
なかなか楽しかったし、
制服じゃなくて
部活のユニフォームで時々現れる坂下くんに
ちょっとドキドキしたりもした。


私は坂下くんが気になり始めていた。


すごく夕焼けが綺麗だった放課後
気がついたら教室には誰もいなくて
私たちだけだった。


何となく目があって
坂下くんが私にチューっとした。


私は何が起きたのかわからなくて
キスされたのだと理解するのに
少し時間がかかった。


あれ?
これは私のファーストキスなんだろうか?
うん、そうだと思う。


あれ?私坂下くんのことが
好きなんだろうか?
わからない、わからないけど気になる。


事態が把握できた後
モーレツな照れが私を襲って
何だかその場にいることさえもできなくなった。


急に坂下くんと私の間に
今までなかった何かができて
クラスメイトとも違う、友達とも違う
よくわからないけど
すごく甘酸っぱいものに包まれた
そんな関係。



今までにない私の中で初めての繋がりがある
男の子になった。


坂下くんは私の顔を触って
もう一度丁寧にキスをしてきた。


さっきはよくわからなかったけど
今度はよくわかる。


自分の体ではない体の一部が触れた感覚。
小さな呼吸や、暖かい温度。


鮮明に私の中に流れ込んできた。


私は坂下くんのことが好きなんだろうか?



これまで誰かを好きになったことはある。
だけどその感覚はない。
でも目を瞑ると胸の辺りが
ざわざわして、背中がくすぐったくて
ちょっとだけ居心地が悪い。


その夜は何だか眠れなかった。

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