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(銀座)広島県のアンテナショップ「TAU」を見てみて

前回のレポートの続きとなります。
9月7日「ひろしま広域都市圏移住フェア」への参加で東京へ向かった際に、地域商社事業の関係の視察として日本橋界隈のアンテナショップを巡り、最後に広島県のアンテナショップ「ひろしまブランドショップTAU」へと向かいました。



日も落ちた18時過ぎ、通りを仕事帰りやお買い物の方たちが行き交う時間に、銀座にあるひろしまブランドショップTAUに到着。

ひろしまブランドショップTAU(広島の方言で「届く」という意味の「たう」が由来とのこと)


訪れた時間帯や銀座という立地の影響もありそうですが、前回のレポートで訪問した8つの日本橋界隈のアンテナショップと比べ、このTAUに最もお客さんが入っていたように思います。

実際のところ、一般財団法人地域活性化センターの公表する2023年度自治体アンテナショップ実態調査報告によれば、62店舗あるアンテナショップのうち2022年度の年間入館者数が70 万人以上あったアンテナショップは6店舗のみであり、そのうちの1つが広島のTAU(翌2023年度は80万6千人:中国新聞)です。
北海道や沖縄のような、観光人気が非常に高く物産も豊富な地域と並ぶほどに、TAUの集客に成功していることがわかります。


1階の物産スペースの商品を見ると、主に食品関係の品がラインナップされており、広島の産品を使ったお土産品(多いのはレモン、牡蠣関連の品)や、カープ関連商品、日本酒、ワインやクラフトビールなど豊富な商品が取りそろえられています。また、入口付近には地酒やクラフトジンで作るレモンサワーなどを楽しめる角打ちスペースが設置されていて、仕事帰りとみられる一人飲みの方や女性客グループが広島のお酒を楽しんでいました。

1階はレモンや牡蠣などを使ったお土産の品物が多数
角打ちコーナーでは地酒やクラフトビール、クラフト檸檬ジンを使ったレモンサワーなどのテイスティングが可能


2階は食品以外の地域産品が主に陳列されており、伝統工芸品やデニム等の工業製品を扱うスペースが広がっているほか、その一角には日本一の筆の産地である熊野から、化粧用を中心とした熊野筆を多数取り扱うセレクトショップが営業しています。
また、3階と地下1階には広島料理のレストランが出店しており、以上の4フロアで営業しています。

2階ではデニムや帆布などを使った製品が陳列
身近な生活アイテム以外にも、神楽や熊野筆などの伝統的な工芸品もラインナップ


こうした充実のラインナップや店づくりが功を奏し、2022年度の年間売上額が7億円以上あったアンテナショップ3店舗のうちの一つとなっています。(翌2023年度は9億5300万円)



一方で、こうした都内の一等地に出店するショップであれば、当然その投資額も大きなものになるため、県単位でのブランド戦略に基づく事業として行うといった形でないと、ビジネスとしては成り立たせるのは難しい部分もあるのかもしれません。

県などの主体がショップを通じて、副次的な(というよりもそれが主目的かもしれないが)観光消費の増加やふるさと納税の獲得なども目指していく側面が強くあると思われ、その場合は、各地の地域商社が行っているビジネスとしての地方での地域産品ショップとはまた違った軸であることを念頭に見なければなりません。

TAUのコンセプト

例えば、広島県のアンテナショップ事業については平成25年度に実施した監査報告書が公開されており、この中で、TAUの設立時のコンセプトや、銀座という立地を選定した理由について;

平成22年11月に決定された広島ブランドショップのコンセプトは、(中略)広島に関する情報を発信し、広島のブランド価値を向上させる、広島ファンの増加を図るというものとなった。このようなコンセプトの下、百貨店やブランドショップ等、比較的価格帯の高い店舗が集まることで街自体がブランドイメージと高い知名度を誇る東京でも有数の繁華街であること、周辺エリアが最寄駅の拠点商業エリアであること、イベントの集客効果が見込めることなどを理由に、銀座の物件が選定され(~)

https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/121257.pdf

という記述があります。

都内一等地の賃料

また、賃料については、広島県の令和6年度当初予算議案書を見ると、広島ブランドショップ運営事業の事業費についてR6年度以降の債務負担行為を設定しており、R6~8年度の支出予定額として計4.9億円(およそ1.6億円/年)が計上。
この大部分が固定費となる家賃を示していると想像すると、年間7億円以上の売上を維持したとしても、固定の年間家賃1.6億円(+その他費用も当然必要)と、TAU開業までに要した施設整備費計2.1億円の償却も含めて、採算が取れているのかは公開されている資料からは読み取れませんでした。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/life/965685_8759584_misc.pdf

(家賃が法外というわけではなく、TAUの持つ954.673 ㎡の坪単価でみると約47千円/坪・月となり、銀座界隈のテナント賃料相場的にも大きく外れない水準かと想像)

あくまで立地や店舗のスケールの問題と思われますが、民間事業者が手を出すのは難しい業態、というかエリアだなぁ、と視察を通じて感じた次第です。
(実際、先の監査報告書には;

一般企業であれば事業計画を作成し、費用対効果の検証を実施するのが通常である。しかしながら、県は費用対効果について事前の検証は行わなかった

https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/121257.pdf

とあり、純粋なビジネス目線で評価した場合には採算をとるのは難しいのかもしれません。)



前回の記事で、「こうした多くの人の目に留まる一等地を生かして、各自治体の行うアンテナショップは単純な店舗での消費だけでなく(ある意味、ショップ事業としての採算は度外視で)、観光客や関係人口の獲得、また地域の魅力の発信やブランドイメージの向上などの拠点となっています。」という趣旨を述べました。

こうした都心部で行うアンテナショップにはそれなりの意義と目的があり、広島のTAUについてはこうした観点で成果を上げていることもわかりましたが、一方で、これからつくるよりスモールでローカルなショップは、実商売の側面を重視したものにしなければいけないな。
今回の視察はそんなことを考える機会になりました。

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