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ちょうどよいまち、を見つけてもらうために

協力隊の活動では、自転車が主な交通手段になっています。
最近は寒くなってきて手が辛いですが、移住して1か月ほどの新しいまちの風景が楽しくて、つい遠回りしてしまいます。

自宅から半径1kmほどの範囲には、駅や昔ながらの商店街のほか、スーパーやユニクロ、家電量販店などもあり生活に不便はなく、さらに半径1kmも伸ばすと瀬戸内海やそれを見下ろすことのできる山もある。人口9.6万人ほどの都市である三原市のまちなかは、こうした変化に富んだ顔を見せてくれる場所で、個人的にはちょうどよいサイズ感でジャストフィットしています。

現在、移住定住の促進や関係人口の創出というテーマに取り組んでいますが、このまちは自分以外のどんな人にとって「ちょうどよい」ものになるのだろうかと考えていました。


こちらに来て初めてマジか・・と思ったのは、市内に映画館がないことを知ったときでした。
学生時代に映画館でアルバイトをしていたことから、かれこれ10数年来、映画館が好きでした。シアターの持つ独特な空気感や、巨大なスクリーンと音響に全集中する没入感、ポップコーンを炭酸で流し込む瞬間の爽快感がたまらなく好きで、そこそこ映画を見てきた方だったと思います。その映画館がないなんて・・、と。

とはいえ、特定の施設やサービスが住んでいる地域内に存在しないということは、当然ですがどこにでもある話です。

少々古いデータですが、国土交通省が2014年に公表した資料のなかに、「サービス施設の立地する確率が50%及び80%となる自治体の人口規模」という興味深いものがあります。
これによると、映画館やスターバックスは、人口27.5万人規模の自治体であれば存在確立は80%だが、17.5万人以下だと50%以下の存在確立になる。一般病院は2.75万人以上の自治体には80%以上存在するが、先進医療を実施する病院は17.5万人以下の自治体で50%以下の存在確立となっている、といった形です。今後人口が減少していくなかで、現状、どの程度の人口規模の都市にどういったサービスやインフラが存在するか、という目安にもなるデータです。

「国土のグランドデザイン2050 参考資料」(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/common/001050896.pdf)より

あらためてこれを見ると、人口9.6万人の三原市内に映画館がない(なお、スタバもありません)というのは、全国と比べても不自然なことではないと理解できます。


話は変わりますが、三原市では現在、ここ数年の社会環境の変化を踏まえて、平成31年度に策定した第2期三原市まち・ひと・しごと創生総合戦略の見直しを進めており、今年はこれに向けた市民との意見交換を行いました。

意見交換では、市としてめざす将来像などについて、どういう人が活躍して、どういう仕事やサービスがあったらよいか(映画館がないことが残念!というご意見もあったようで、思わず深く頷いていました)という市民目線でのご意見があり、市はこの将来像の実現に向け必要な事業を、次のまひし総合戦略に入れていくことを検討しています。
現在は僕自身も市民として、こうした取組を市が進めていることは有意義に感じており、この将来像に描かれているようなまちになることに希望をもっています。

一方で、移住定住の促進や関係人口の創出という文脈において、「他所にはあるけど足りていない便利なサービス」を埋めていくというのが、市外にいる人にとっても魅力的に映るのか、ということには疑問があります。数学ではマイナスを引くとプラスになりますが、移住を検討する人にとって、マイナスを引いてゆく、まちの足りないところを埋めてなくすことは、プラス要素になるのでしょうか。


三原市には、僕の住んでいるまちなかの地区もあれば、中山間地域、離島もあるといった環境で、それぞれに「理想の農業がしたくて山に来た」、「車の少ない静かな暮らしを求めて島に来た」など、地区によって異なるいろいろな動機で、最終的に三原を選んだ移住者の方たちがいます。

思うに、こうした理想の仕事や暮らしを思い描いていた人は、もともとは三原の外にいた人であったわけで、こうした人にとっては、「他所にはあるけど足りていない便利なサービス」がないかどうかよりも、どんな生活がしたいかという目線が第一にあり、既に三原にある(または、こういう場所だというビジョンが見える)プラスの部分の引力に引かれ、三原のことを知ったのではないでしょうか。

ライバルが乱立する移住定住・関係人口というテーマにおいて、どのように三原を知るきっかけを持ってもらえるかというのは大切な課題であると思っており、そうした意味では、三原の持つ強力なプラス要素はこれで、こういう人にハマる「ちょうどよい」まちであるというメッセージを、適切な人に届くように発信していけたらよいのではないか。
そうして、現在住んでいる市民が思い描く将来像に、既にある三原のよいところに惹かれてやってきた僕たち移住者も共にまちに参加している、そんなにぎやかなまちの未来が描けるといいなと思っています。


なお、映画館に関する僕の憂鬱についても、なにも残念でした諦めましょうというわけでは決してありません。
ちょうど1か月ほど前、離島である佐木島で、福山市の事業者さんや島の小学校と連携して、ドキュメンタリー映画の野外上映会を行っております。また、その少し前には同じ事業者さんの協力で、まちなかの歴史ある古民家での上映会も開催。いずれも好評であったそうです(参加したかった)。

何か足りないのなら、地域で工夫して別の形で作りあげていくこともできますし、その方が面白かったりもするでしょう。(そもそも、少し行けばお隣の尾道市や福山市にも映画館はありますし、市内にないからといって困るような話でもない全くの杞憂でした)
映画館がなくても、気の合う仲間と映画を楽しむことはできるし、スタバがなくても、古民家カフェでコーヒーを楽しむこともできる。地域にはそういった、便利ではないかもしれないけどより豊かな楽しみ方もできる、という魅力もあることを実感しています。

大都市のように派手な施設やサービスはないけれど、昔からある里山や里海の豊かな環境や地域の中でのつながりがあり、暮らしは十分すぎるくらいにできる。足りないものがあっても、足りないなら工夫をしていこうとする面白い取組があったり、何よりも、まちを盛り上げるために頑張っている面白い人たちがいる。
こういうまちが「ちょうどよい」と思って三原に帰ってたり、知らない土地だけど行ってみたいと思ってくれるような人たちに届くよう、メッセージを発信していけたらと思っています。



追記

本日、「新経済・財政再生計画 改革工程表2022」が公表されました。

とくに地域に関しては、「新しい時代に対応したまちづくり、地域づくり」として、工程表に記載されたさまざまな取組を国は進めていくことになります。こうした時代の流れに沿ったモデルとなりうる取組を地域としても進めることができれば、取組を起点に三原の特徴ある地域性なども広く知ってもらう機会にできそうだと、勝手ながら想像を膨らませます。

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