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小説『再会』第九章「だいじな親友」

このレトロな喫茶店は、ここが昼下がりの新宿であることを忘れ、甘やかな郷愁にトリップしてしまう不思議な空間だ。

コーヒーに角砂糖をひとつ落とす。ほろ苦い液体の中でゆっくり溶けていくのをぼんやり眺めていると、美紀が言った。

「琴絵ちゃんは、元気?」
「こっちゃん?うん、この間エアメールが届いたよ。うまくやってるみたい」

彼女も第一志望だった英語系の大学に合格し、地元に残った。大学卒業後は海外に発ち、イギリスで仕事を 見つけて暮らしている。

在学中も海外留学に渡ったりとグローバルに行動し、英語力を活かせる仕事に就きたいという話は聞いていたが、まさか海外で働くようになるとは思っていなかった。イギリスにいると知らされたのも、大学卒業後、 彼女が日本を離れてしばらく経った頃のことで、向こうから電話がかかってきて初めて耳にした。

こっちゃんと直接会ったのは、3年前のあの日が最後になる。

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