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小説『再会』最終章(第十章)「やさしい鈴の音」

こっちゃんが、切れ切れの声で言った。瞬間、こっちゃんも永山春翔が好きだったのかと新たな感情が心をさらに混ぜっ返した。

しかし同時に、そうじゃないかもしれないとも思った。

はぁはぁと呼吸がどんどん乱れ、苦しくなる。こっちゃんを見つめる。絶対に目を合わせようとしなかった 彼女がゆっくりと目を上げ、堰を切ったようにどっと言葉を続けた。

「昨日、電車に乗ってたら永山くんとばったり鉢合わせたの……ちょうどこっちに帰ってたみたいで……それ で『林さんは元気?』って、麻莉のことも聞かれて……『すごく』って頷くと、彼、相変わらず大切な宝物を 見つめる瞳で柔らかく笑って、電車を降りていった……永山くんにとって麻莉は今でも特別なんだって思った 瞬間、彼のまっすぐさに、自分の歪んだ想いが炙り出されて……私は麻莉が遠くに行ってしまうのが怖かった、 いつか永山くんのいる東京へまで飛び出していくんじゃないかって、それが嫌だった、私がずっと麻莉の隣に いたかった、家出した中学生の私を黙って受け入れてくれたときから、ずっと……!だから最低でめちゃく ちゃな嘘ついて、ふたりを無理やり引き離した……こんな安っぽい嘘、いつかバレるかもしれないし、そのと き麻莉にどんな怒りをぶつけられても見放されても仕方ないし、そのくらいひどいことをしてしまったけど、 私はバレない限り麻莉のそばにいつづけようとしてたの、でも昨日永山くんに会って、やっぱりこんなんじゃ だめだって、ちゃんとすべて話さなきゃって……」

ひとつの心に収まりきらないいくつもの複雑な感情が胸の内でぼこぼこと暴れまわっている。でも、こっちゃ んが信じられないような幼い嘘をついていたと知っても、どんなに腹が立っても、彼女に100パーセントの 嫌悪は向けられなかった。私だってこっちゃんのことはずっと大切で、失いたくなんてないのだ。けれど今後 も同じ気持ちでいられるのか、今はもう全然分からない。私は乾いた唇を噛みながら、ただ押し黙ることしかできなかった。

「今日、ここに来る途中、永山くんにメッセージを送って、同じようにほんとうのことを伝えて、謝った……」

 こっちゃんは涙を拭わないまま、私をじっと見つめた。かき乱れた心を整理できないままの私とは裏腹、彼女はくっきりとした覚悟のようなものを瞳に宿し、言った。

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