小説『あこがれ』
休み時間、隣のクラスを通りがかるとみさきの姿が目についた。2年生になっても、彼女は相変わらず机に映画雑誌を広げて黙々と読み耽り、ひとりの世界に没入している。
双子の姉であるみさきは、大の映画オタクだ。中学生のときに観たある外国映画の、独創的で密度の高い世界観にとにかく魅了されてしまったらしく、それ以来底なし沼にはまったようにどんどんのめり込んでいった。
だからみさきに映画の話題をふるには覚悟が必要、なぜならお気に入りの作品の爆語りはお手のもので相手の興味や時間なんて一切気にとめず喋り倒す。
そんな中学時代を経て、さらに高校生に上がる頃には「自分で撮ってみたい」とまで言い出した。バイト代を貯めて中古のカメラを購入するや否や、家でも野外でも校内でも所構わずカメラを回して、暇さえあれば撮影していた。みさきの映画の世界へのあこがれはとことん肥大していくばかりだった。
そんな猛烈な熱狂をたたえたみさきに、もちろん周囲はほとんどついていけなかった。だからいつしかクラスでもなんとなく孤立していって、高校2年生になった今だって友人と呼べる人は映画オタク男子のアライくらい。つまり、みさきはまあまあ学校の中で浮いている。
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