
小説『家出少女』
小説「家出少女」
三月のパンタシア「街路、ライトの灯りだけ」原案小説
1
空気の粒が、お客さんの熱気を吸ってどんどん膨らんでいく。それを肌で感じながら、私はさらに鼓動の音を高くした。
満員のライブハウスで、私たちはそわそわと開演を待っていた。
「あーヤバ、今日ステージ近いな。緊張してきた」
隣で伽耶ちゃんが呟く。うん、と私もどきどきしながら頷いた。
Ritaのライブが、私は本当に好きだ。
ぽっかりと空いた寂しさに、そっと触れてくれるあの歌声。
体が感電してしまうみたいに、背骨の芯まで震えるサウンド。
Ritaが生み出す物語世界に、色を落とし光を灯す照明。
私たちは、Ritaが紡ぐ物語を体感する。
それは時に切なく、時に多幸感に満ち溢れ、時に狂おしく、というようにいくつもの感情を織り交ぜながら、重層的なストーリーを音楽の中で表現する。
Ritaのライブを観ていると、いつも知らず知らずのうちにその物語の中にすっぽりと包みこまれてしまうのだ。
それに彼女の切実でまっすぐな表現に触れるたびに、なんというか、Ritaと自分が互いの心臓を直に触れ合っているような、どこか生っぽい手触りの奇妙な錯覚を覚える。だから、Ritaが苦しそうに歌うと、私も苦しくなる。
開演時間にぴったりに客電が落ち、わぁっとフロアにざわめきが起こった。
大きなスクリーンには、今回のライブのプロローグとなる映像が映し出される。モノクロの街の映像を基調としたシンプルな画が流れる中、ふいに画面に光があふれて映像はフラッシュアウトした。
洋画の字幕のようなスタイルで、メッセージが浮かび上がってくる。
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