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#75 精霊の宿る石

鍵を手に取った私は
前回深海都市への扉の鍵を買ったときのことを
思い出した。

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深海へ行く準備を全くしていない状態で
何も考えずに扉へ向かおうとしていた。

鍵屋に声をかけられ、
のことを教えられなかったら
扉をくぐった瞬間、どうなっていただろう。

「あの…精霊の宿る樹の辺りは
何か行く前に準備するものとかありますか?」

「あぁ、前回は
深海にそのまま行くとこでしたもんね。
でも、大丈夫。
精霊の宿る樹の辺りはそのままで大丈夫ですよ。」

「よかった。ありがとうございます。」

「変なキノコ食べたりとかさえしなければ。」

鍵屋は最後にそう笑って付け加えた。

「あ、はい。気を付けます!」


私は鍵を持って扉へ向かった。
鍵を挿して扉を開けると前回同様、鍵は消えた

扉の先は
柔らかい陽の光と蛍のような小さな光が
ひらひらと飛んでいた。

足元では太い根っこの先が
びっしりと生える雑草に埋もれるように
しっかりと根を張っていた。

私は森に足を踏み入れ、扉を振り返って閉めた。

その扉は
幹も枝も葉も不思議な柔らかい光を放つ
巨大な木の幹に埋め込まれていた。

その太い幹は直径が10mは超えそうな巨木で
その背の高さは確認できないほどだった。

相変わらず樹の周りには
ふんわりとした光が飛んでいたが
その一つが足元の草の中へスッと消えたかと思うと
大きくキランッと光った。

写真 2020-06-15 20 48 20

その辺りを見てみると
小さな白い石が生い茂る草の中に落ちていた。

精霊の宿る樹への扉の鍵に付いていた
精霊の宿る石と同じものだった。

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辺りをよく観察すると
いくつか同じ石が落ちているのに気が付いた。

そして、鍵についていた石同様
光の色にはいくつかの種類があった。

私はそれを数個拾い
掌に並べて石の中で飛び回る精霊の光を眺めながら
森を歩き出した。

初めて見る森の中で
不思議に勇気をもらうようだった。

写真 2020-06-15 20 50 08

森は少し間隔を空けて木が生えていて
木漏れ日が差し込む明るい森だった。

芝生のようにふかふかと生えた草の中に
誰かが踏みしめたように
うっすらと一本道ができていた。


似たような木々を見ながら
数分歩いたところで
少し開けた場所が出てきた。

そこには歩いてきたところよりも
背の高い草花が所々に生えていて
女の子が向こうを向いて屈んでいるのが見えた。

強いウェーブの
シルバーに輝くような長いブロンドの髪には
ピンクと白のお花で作られた花冠が乗っていた。


明るい森とは言え
初めて踏み入れる未知の場所で
心細く感じていた私は
少女に声をかけようと近付いて行った。

すると
何やらブツブツとつぶやいているような
少女の声が聞こえた。


独り言でも言いながら
花を摘んでいるのかな、と思いながら
さらに近付くと…

「え?そうでしょ?
あはは。それって…」

少女は明らかに誰かと話している様子だった。
しかし、少女以外に誰の姿も見えなかった。

私は反射的に
すぐ左手にあった木の影に隠れて様子を伺った。

「そうそう。
ん?え、そうなの?私の後ろに…?」

少女は私の方を振り返り、私達は目が合った。



これが精霊の宿る石を拾った時のおはなし。
続きはまた次回に。


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