さぼ子さん その5
連載ファンタジー小説
五 さぼ子さんの不思議な力?
「イテッ!」
人差し指になにかがささった。
ずきずき痛みはじめた指先を見てみると、針でつきさしたみたい穴があいて、そこから血がにじみでていた。
「琢磨、どうした?」
「トゲ、トゲがささった」
「トゲ?園芸種のサン・ペドロには・・・トゲなんてないはずだよ」
指先をなめていたぼくに、健がランドセルからバンドエイドを出しながら言った。
「そうだよな。オレんちのサボテンにもトゲなんてない」
「ぼくの家のも・・・」
卓也と健がつづけて言ったけれど、さぼ子さんだって今までトゲなんてなかったんだ。
それなのに、どうして急にトゲなんて出てきたんだ?
「なあ、みんなで、どうなってるのか見てみようぜ」
卓也とぼくと健は、せまくて落ちそうになりながらも、なんとか三人で脚立の上に立った。
「右の方だよ」
グラグラゆれながらぼくらが見たのは・・・
「うわっ、なんだよ、これっ?」
さぼ子さんの幹のうら側におわんがくっついてる?
ううん、正確にいうとおわんのような形をした緑色のでっぱりで、そのでっぱりのまんなかに、玄じいちゃんが持っている畳針みたいなでかいトゲが出ていた。
卓也が指でつついても、長いトゲはビクともしない。
「なぁ、もしかして、このトゲが光ったのか?」
「うん、たぶんそうだと思う。あの時、ちょうど朝日がさしこんでたから光って見えたのかも。でも、こんなでっぱりがあったなんてぜんぜん気がつかなかった」
「このでっぱり、いつできたんだ?」
「木曜日は、父さんがさぼ子さんを外に出したんだ。その時、こんな大きなでっぱりがあったら気がつくはずだから・・・」
「じゃあ、金曜か。金曜日、この日からなにかが始まったのかも」
「ねえ・・・」
ぼくと卓也の話をしているあいだに、もう一度脚立にのぼっていた健が呼びかけてきた。
「このトゲ・・・、空を向いてるよ・・・」
たしかにトゲはななめ上、つまり窓ガラスの上に広がる空をめざすかのように伸びていた。
「どうしてこんな変な向きをしているんだ?」
卓也が聞いたけれど、ぼくがわかるわけない。健はというと、返事もしないで、スマホで緑のでっぱりとトゲの写真を何度もとっていた。
この時、聖子の声が聞こえてきた。
「おにいちゃーん、ただいまー」
「やばっ、じっちゃん、もう帰ってきた」
さぼ子さんの方は調べ終わったので、ぼくは卓也や健といっしょに一階に降りていった。
「かあさん、ちょっと健のところに行ってくる」
外に出たぼくらのあとを、聖子がおっかけてきた。
「お兄ちゃん、さぼ子さんのひみつわかった?テレビ局にいつ電話する?」
そんなにすぐにわかったら、苦労しないって。
でも、さぼ子さんに、おできみたいな変なものが出ていること、そして変化は金曜日から始まったことがわかったから、これは幸先がいいよな。
うん、テレビ出演の日は案外近いかも。
よーし、次は健のところだ。
「ここ・・・、ここにサボテンのことが書いてあった」
健はノートパソコンを開いて、すぐにサボテンのことが書いてあるサイトをさがしだした。
「げぇっ、なんだよ、字ばっかじゃんか」
卓也は、なにかのデーターみたいな折れ線グラフと文字だらけの画面を見てうなった。
「これじゃあ聖子がわからなからさ、なにが書いてあるのかかんたんに教えてやってくれよ」
わからないのは聖子じゃなくって、自分だろってつっこみを入れたかったけれどやめた。
だってさ、ぼくも卓也と同じでなにが書いてあるのかまったくわからなかったから。
「えっと、これは砂漠で・・・植物が出す放射を記録しようとした時に見つかった音の記録で・・・明確な音が三十分以上もつづいたんだって」
「それがサボテンとどういう関係があるんだ?」
「あの・・・この装置にはサボテンの生きた組織が組み込まれていて・・・、それが空に向かって置かれていたんだ。簡単に言うと、えっと・・・サボテンをとおしてETと交信できたんじゃないかってこと・・・だと思う」
「ETだって?」
ぼくと卓也が同時にさけんだ。
「なんか、すっげぇ」
これだけで、卓也の目がらんらんとかがやき始めた。
「ねぇお兄ちゃん、ETってなに?交信ってなに?」
「宇宙人と話ができるっていうことさ」
「宇宙人?さぼ子さん、宇宙人と話ができるの?だったら、なんて話してるの?」
「そんなのわかるわけないだろ?」
健は、まだパソコンから目をはなさなかった。
「こっちに・・・日本の科学者とサボテンのことが書いてある」
「おっ、なんて書いてある?」
見てもわからないくせに、卓也はパソコンをのぞきこんだ。
「この科学者のおくさんが、サボテンに話しかけると・・・ブーンって歌うみたいな音がでたんだって」
「ブーンって音って、琢磨が言ってた音のことじゃないか?」
ぼくはうなづいたとたん、卓也は大声でさけび、聖子の手をとっておどりをはじめた。
「うぉー、やったね、やったね。やっぱ、さぼ子さんって超能力があったんだ。イヤッホー」
奇声をあげながら、卓也と聖子はその場で飛びはねている。でもぼくと健はすこし距離をおいて見ていた。
健は絶対にはしゃぐなんてことはしない性格だから、いつもこんな調子だけれども、けっこうお調子者のぼくがはしゃげないのには、ちゃんと訳があったからだ。
健がさがしだした情報はすごい。でも、ついさっき気づいたんだけど、これってさぁ、特別なサボテンじゃなくってもいいんじゃないの?
「テレビ出演、無理かも・・・」
ぼくがつぶやいたことばに、卓也と聖子が反論した。
「えっ?なに言ってんだ?さぼ子さんには超能力があるんだぞ、無理なわけないじゃん」
「お兄ちゃん、変なこと言わないでよっ」
「だってさ、これを見ると、ほかのサボテンだって音を出すだってことだろ?そう考えると、さぼ子さんだけが特別じゃないんだって」
卓也が、いっしゅんにしてみじめな顔になって、ぼくをにらんだ。
「じゃあ・・・さ、さぼ子さんは、テレビに出られないのか?」
「さっきのサイトからすると・・・たぶん無理だと思う」
「うわぁーん、いやだー。さぼ子さんが、テレビに出ないと、咲ちゃん、ひっこししちゃう。そ、そんなの・・・ヒック、いやだよー」
聖子は大泣きしはじめ、卓也は卓也でこれ以上無理ってくらい暗い顔している。
ぼくはというと、自分で言ったことなのに、やっぱりショックなんだよなぁ。
「なぁ、オレたち、これからどうする?」
卓也が、暗い声で聞いてきた。
さぼ子さんを観察して、ネットでサボテンのことをしらべたら、次はどうやったらまた超能力を復活させられるか考え、なんとか道筋がついたら、じっちゃんたちに報告して、最後はテレビ局にれんらくする。これが、ぼくが考えた計画だったんだ。
「なぁ、どうする?」
もう一度、卓也が聞いた。
「そんな急に言われたって、なんにも思いつかないよ」
「そうだよなあ。うーんしかたない、じゃあさ、今日のところはひとまず帰るとするか。で、また明日話しあおうぜ」
「そうするしかないよな。健もそれでいいだろ?」
健はなにか言いたそうな顔をしたけれど、すぐに小さくうなづいた。
「さぁ聖子、帰るぞ」
聖子は、しゃっくりをあげながら、まだ泣いている。
「ほらっ。咲んちがのこれるように、兄ちゃんが、ちゃんと考えてやるからさ」
「ほんと?さぼ子さん、テレビに出られる?」
「なんとか出られるようにするって」
この時ぼくは、あの甘い匂いのことなんてすっかりわすれていたんだ。
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