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対談企画、浅井×船山改×編集部「アート」後編

インタビュー

改 日本のもの作り凄いなと昔から思ってて、神社とかお寺とか、漆器もですけど、自然のものを使って作って、壊れても直して直して本当にダメになったら捨てる。土に還すという。塗料でさえ自然のものだからその辺に放り投げても自然に還る。江戸時代はそれが出来ていた。谷には畑があり、山側では薪が取れて、離れ山では木材が取れる。

自然が生活の一部で、良い循環を作っていたのが日本だったってある本を読んで知ったんですけど、だから今の時代を見ると、そういう時代があったからこその寂しさというか、今は出来ないんだぁみたいな。笑。

でも素晴らしい技術がたくさんあって残せるものもたくさんあって、僕はファッションだったんで、着物とか柄に興味を持ち始めて描き始めたんです。浮世絵でもそうなんですけど、下書きがしっかりあったんですよ。四角と丸と三角と、そういう図形から構図が考えられてその上に絵が描かれてるんですね。考え方として「設計」っていう文化が日本にはあったんですよ。ただ設計って、見せてないから奥ゆかしさがあるんです。人の居心地の良さって無意識に設計されたものなんですよ。

パッと置かれたものは無意識の良さじゃないんです。誰かが気づかれないようにスッと置いて、それを見た人が気持ち良いね、と思うのは意図的に裏で設計をしているからなんですよ。それが日本人のデザインとかアートの特権だと思ってるんです。表立って機能性を出さない。

僕はコンパスと定規を使って正確なものを書くんですけど、真っ直ぐな線じゃなくて、そういう奥ゆかしさをどこかに入れることで、日本らしさというか、説明しなくてもみんなに「日本ぽい模様だね」って言ってもらえる、それは無意識の設計があるからなんですよね。きっと。

編集部 海外の絵の下絵には、図形を使って構図を設計していた傾向は無いんですか?

改 モンサンミシェルとか建造物には多く見られるんですが、アートとして見るとないですね。昔の人って感覚が強いので、感覚的に黄金比とかが分かるんですよ。それを計算で出してる人もいますよね。

浅井 フィボナッチだね。

あらた そうです。黄金比自体の考え方は昔からあったんです。でも活用の仕方が西洋と東洋では違う気がしてます。特に日本の文様は特別で、白と黒の相対比だったり、人が見て気持ち良いっていうのは、言われないと分からない。

編集部 子供向けの教育番組で、日本文様がどうやって出来ていくのかを見せてくれるのがあるんですけど、そこでコンパスがたくさん出てくるんです。それで私は、昔の人はこんなに計算して描いてたのかと、そもそも誰がこんなこと考えたの?すごい!って子供番組を見て思うんですよね。

あらた 凄いですよね。僕の想像ですけど、昔の人って何かを学んだ時、たとえば、算術を学んで、その算術を使って地図を書く、あるいは、算術を使って絵を描くっていう人たちが多い。浮世絵もそうなんじゃないかと。特に浮世絵を描いていた人には算術を学んでいた人が多かったんですよね。図形が算術からくることが分かっていて、算術がバランスをとることも分かっていたので、必要なことをそこから学んでいた。

編集部 浮世絵や紋様の元は算術?そういう学びを経験者が次につなげたということですか?

あらた 師匠が居て弟子がいて(そういう仕組みの中では)学ぶ人が必ずいますよね。今はネットで情報を拾う時代なので、誰かから学ぶ機会が無くなりかけてますけど。僕、影響を受けた本があって黒魔術みたいなオカルト美術史っていう本なんですけど、天文学と宗教学を学んだ人が描いた絵が、それらを学んだ人にしか分からない恐ろしい意味が隠されていて、それを読んで、自分はこのまま進もうと思ったんです。笑。他ジャンルで学んだからこそ出る深みですよね。

編集部 勉強したことや経験したことは表現に出てきますよね。

あらた 深みっていうのは学んで表現することで初めて可視化できることだと思いましたね。パソコン作業だけしかしてなかったら、パソコンの技術しか表現の選択はないわけで、なんていうか、そういうのをオカルト美術史から学びました。笑。

浅井 (急だけど)日本の良さについて話しましょうか。編集部は何か思うことある?

編集部 私は家族揃ってご飯を食べている時とか、家族で見れるテレビ番組見てる時とか、日本が良いなっていうのは分からないけど、こんな無防備に何も考えず笑っていられるなんて平和なことだなぁって思いますね。先生テレビ見なそうですよね。笑。

浅井 海外いる時、ホテルでは見るよ。でも家族で楽しめるの少ないかもね。世界情勢は多いかな。日本は確かに家族で楽しめるテレビ番組多いかもね。

編集部 テレビ見てる家族の輪の中のちょっと外側から、なんて平和なんだろうって思います。

浅井 そこ俯瞰するんだね。笑。

編集部 します。中にいて「楽しいな」だけじゃなくて、もう一人の自分が外から家族を見ていて、「あ、幸せじゃん」みたいな。笑。

浅井 凄い良いよね。そんな感覚あったら。笑。

あらた それって、日本だから持てる幸せなんですかね?環境ですか?

編集部 知らないから比べられないだけです。先生が海外行ってきた話を聞いてると、フィーリングが合う人たちと出会って、帰ってくるのが苦しくなったり、その生活の中で知った自分の方が本当の自分だって気づくんだろうと思うけど、私はここでしか生きてないから、比べるもの持ってないんです。

あらた 凄いっすね。

浅井 比較のない幸せは究極だね。

編集部 自分の中で自分の人生とは比べますよ。あの時の自分より今の自分が幸せだったら十分。

あらた なんか、、、なんていうか、僕らが現実を生きてないんすかね。

浅井 生きてないね。笑。

あらた そういう幸せって凄い幸せなことだし、僕もそういう幸せ欲しいなあ。

浅井 いやーやめた方が良いよ。

あらた やめた方が良いか。笑。

浅井 なんで俺がこんなゴチャゴチャやってると思う?これを望んじゃったからだよ。俺もそれが出来たらどんなに楽かって感じで。やってはみたけどね。でもギャップが半端ない。笑。苦しみも。だからね。無理です。笑。

あらた それ日本人だったからってのありません?

浅井 そういう風に思ったこともある。若い頃。でも全然違うね。俺の幸せを俺自身が望んでも無理で、自分の幸せよりも平和をどう作るかってのを考え始めた時に、向こうから幸せが来るタイプの人間なんだと思う。

あらた そういうことか。

編集部 担うべき役割が違ってたんですね。

浅井 人にはなんか役目みたいなもんがあって、それに気づいた時から何かが始まるんだろうね。

編集部 あらたさんは気づいたんじゃないでしょうか?転機となった4年前に。

あらた 気づきというか、自分の中の変化が大きかったんで、精神的な部分とか。疑問に思うことが増えて、じゃあその価値観はなんだったら解消されるのかずっと探してる感じですね。

編集部 ギャップを埋めてるんですね。

あらた そうなんですかねー。

浅井 そうなんだと思う。だからね、やってるうちにだんだんと、生活とか、自分の行為を愛せるようになってくる。

編集部 それが出来てれば幸せな気がしますね。

浅井 でも表現って、そんな都合よくポコポコ出ないよね。笑。

あらた 出ないっす。毎日悩んでます。笑。仕事のオーダーも色々なんで。

浅井 使う脳みそ違うでしょ?

あらた 違いますねー。特に写真とデザインの時に使う脳みそが違くて、止まるんです。笑。写真やってる時、デザインのことやると、頭が写真の方に戻っちゃうんですよね。

浅井 なるほど。ある作家が言ってたんだけど、短編書くときには長編書かないんだって。その逆も。それは作品の純度を上げるためなんだろうね。きっと。

あらた ゴチャゴチャしちゃいますね。

浅井 難しいんだよきっと。

あらた めっちゃ難しいですね。

浅井 今ハウツーと長編と短編を同時に描く練習しててルールを決めてる。午後6時以降はハウツー書かないとか。

あらた それは何でですか?

浅井 そのぐらい強制的に切らないと、人間の脳みそは引きずられちゃう気がする。

あらた ずっと引きずってますね。笑。

浅井 ねー。笑。だからどっかでザクっと切らないと。

あらた 写真の仕事は、必要な写真を相手が選んで、色を直してって、行程が3つあるんですよ。ただそれを待ってたら食えないんで、その間にデザインの仕事もやる。写真のレタッチと構図のバランスを考えるのが好きなんで考えてるんですけど、頭はデザインの方になっちゃってるんで、ちょっとデザイン寄りになったりとか。それでパンクして、1週間なにもしないとか。そんな風になっちゃってますね。笑。

浅井 スイッチが切り替わらないまま次に進んでるんだね。

あらた はい。だからあまりメリハリがないまま進んじゃいました。それが今年の反省点でした。量はこなしてるんですけどね。

浅井 3〜4年ぐらい前から忙しくなってたよね。

あらた なりました。自分の中で意味のないものを作らないってルールがあって、というか、自分が望んでいないものを形にしないって事なんですけど、完成するまでの下書きの量の方が多いんです。600下書きやって実際形になってるのは100もないです。

浅井 そのほうが仕事としては増えていく?

あらた 増えていきましたね。もともとキャラクターを定義づけられるのが嫌だったんです。写真家とかアーティストとか、そういう肩書きが嫌なんですよ。薄っぺらいというか、それで人間性は分からないわけですし。だから曖昧にしてましたね。例えばお医者さんなら、お金持ってるのかな、頭良いのかな、みたいな先入観が人を壊すんですよ。望んでるキャラクターに自分がしたがるというか。

浅井 なるほど。最終的に自分自身がその誰かが思った人物像に引っ張られるってことない?

あらた 引っ張られていきますね。

浅井 むしろ他人がどう自分を定義したかより、引っ張られそうになるその力が嫌なんだよな。一緒。笑。

あらた ですね。嫌いですね。笑。

浅井 そうなる場所には行かない。そういう人間関係も断ってる。

編集部 

浅井 ポジティブだとやりたいことを増やしてくでしょ。俺の場合はやりたくないことを削って残った部分に向かってる。最終的に一緒なんだけど、そうしないとなんか精神がキツい。これを何かの病気と呼ぶんならそうだろうね。そこはどうとでも言ってくれと思うんだけど、さっき話した肩書きがない状態、ナニモノでもない状態ってのはこの生き方で手に入れた。俺にとっては一つの成功かなと思ってる。

あらた 確かに成功ですね。

編集部 肩書きから勝手な想像、私も含めみんなすると思います。勝手ですけどね。笑。

あらた しますよね。その価値観が苦手です。笑。

編集部 私が思うに、寄っていっちゃうのは優しいからなんじゃないでしょうか。作られた価値観に寄っちゃうのは。だから遮断しないと無理なのかも。

浅井 そうそう。

編集部 お母さん的な見方ですみません。

浅井 お母さんねー。

編集部 なんか子供って期待された通りにやらなきゃとか思うから。

浅井 俺は世代だから分かるなあー。大人が理不尽な時代だったからね。よく殴られた。笑。

編集部 改さんは優しい。人によって優しさの種類は色々ですけど、私はそう感じます。笑

あらた そうなんですか。恥ずかしいですね。笑。

浅井 なんかやっぱりお母さん目線なんだよなあ。笑。あらたってね、どんなに酔っ払っててもめちゃくちゃ美味い鍋を作るんだよ。タスクを着実にこなしていく。笑。

あらた 不安なんですよ。自分が最後じゃないと。笑。

浅井 俺は頼りまくって生きてるかもな。真っ先に動けなくなる。笑。

あらた 俺はあまり頼らないですね。周りが助けを求めてる時に1番最初に頼ってくれるのが僕であれば良いなと思ってますね。そのための準備はしている感じです。

編集部 うーん。いい子ですねー。泣。

浅井 お母さん出ちゃってるよ。笑。

あらた 今まで歳上の人に可愛がってもらったんですよ。それで今の仕事もありますし、今こうやって好きなことで生活できるようになったのは、そういう人たちが僕を見つけてチャンスをくれたのは絶対なんですよ。じゃなきゃ生活できてないですし、それを今度は僕が下の子たちにやらなきゃいけないですし。

編集部 今おいくつなんですか?

あらた 28になりました。なっちゃいました。笑。

浅井 そう言われると、俺は困るな。この年で、、、笑。

全員 笑。

あらた 昔っから変わらないですよね。この感じだから一緒に遊びますよね、浅井さんとは。

浅井 小学校3年生ぐらいだから。マインドはそこにいる。

あらた へえー。俺、高校生で止まりました。浅井さん、止まるの早いっすね。小3ですか。笑。

浅井 ねー。笑。止まるっていうか。40歳の時に始めたサーフィンが分岐点だと思う。小3の時、巨大な鯉を釣ったことがあって、両腕の中でビタビタ暴れる鯉と、その時の興奮が蘇ったのよ。で、その時の感覚を求めて地球の裏側まで行ってたんだなーって思った。その感覚をサーフィンで得て、それからどんどん社会性失ってったね。笑。

あらた サーフィン。笑。

編集部 先生その頃に結婚生活というものも同時にあって、それってとても社会的な行為だと思うんですけど。

浅井 そうそう。だからそのギャップに苦しんだ。今は離婚して落ち着いてる。笑。

全員 笑。

浅井 合ってる生き方ってのがみんなそれぞれで、それを見つけられたことは幸運なことだったと自分では思うね。気付かずによく分からない人生を過ごすより、どんなにボロボロになっても手の感触がある人生の方が俺は好きだから。社会的じゃない人間として批判されても、合ってるものに気づけたってのは俺にとって良かったな。

あらた そうかもなー。

浅井 でもそれでも離れたくなるよ。だから一人で原稿書いてる一日、ゆっくり起きてしっかり飯作って外に出て食べて、原稿書いて。裏山散歩して、また原稿書いて。そういう日がめちゃくちゃ重要なんだよね。

あらた 僕も同じような生活してますね。笑。朝ゆっくり起きて、犬の散歩して、ご飯作って、風呂入って。夕方から仕事するみたいな。
でもその生活を逃げてると思っちゃいます。

浅井 理想像があるからだよ。

あらた 肯定してるつもりができてないんです。朝早く起きて仕事する誰かもわからない理想の人物を何故か毎日目指してるんですよ。なんでなんですかね、あれは。

浅井 なるほどね、でも、自分に丁寧に生きてるでしょ。

あらた はい。生きてるつもりです。

浅井 表現を仕事にしてる者としては、作品を作ってる課程としてそれで正しいと思う。でも思いはずっと理想に向かってるから、自分で作ったその吸引力に引っ張られる。
だけど、その吸引力が無かったら作品は生まれないはずで、そのギャップはずっと続くんだと思う。

あらた ずっとかぁ。

浅井 だからこそ落とし込みどころを見つけることと、自分に丁寧に過ごす時間はすごく重要で、それこそが休息だと俺は思う。

編集後記

出会って13年。今までできなかった話しができるっていいですね

やっとだよ。あとその人のタイミングもあるしね。

ありますねー。今やっと話せるようになった。

こっちも受け取る準備ができた。

先生、大人になったんですか?

なり始め。笑

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