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夜に彼は飛行機に乗るのだから

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

ちょうど今くらいの時期でした。その日はどうしても誰かと肌を寄り添わせて、秋の物寂しさをどうにかしたいと願っていたのです。

いつも会ってくれるボーイフレンドたちは、なぜかその日みんな都合が悪く、会う事ができませんでした。だから私はマッチングアプリでやりとりをした事のある何人かに声をかけたのです。

スーツ姿のスラッとした写真の彼が、昼間に時間を作ってくれると言います。夜は電車に乗るから限定した時間の逢瀬でした。

彼はその日待ち合わせ場所に現れましたが、私は彼をなかなか見つける事ができませんでした。彼は写真の時より20kg以上は違うとても大きな人だったからです。私は、過去にマッチングアプリで会った男性たちの言葉を思い出しました。「写真と違う人が来るんだよ」

今まで、なんとなく細身の人ばかりと会っていた私には初めての体験でした。彼とホテル街を彷徨い、一つの建物に入りました。どうしていいのかわからなそうな私と彼は少し飲み物を飲みながら、自分たちの話をポツリポツリと始めました。

彼は既婚者で、奥様は妊娠中で、今日は出張で東京に来ていて、夜の飛行機で住んでいる場所に帰るのです。マッチングアプリでは、いつも出張先で女性を探し、ランチやディナーの場所を教えてもらう代わりに、彼女たちに奢っていると言いました。

「ホテルに誘われたのは初めてだよ」

彼は言いました。ずっと美人局だと思っていたそうです。私たちは一緒にベッドに入りました。そして彼に言われました。「どうすればいいの?」それはいつも会うボーイフレンドの意地悪ではなくて、本気なようでした。私はひとつひとつ彼に口で伝えました。

彼は途中で全てを思い出したように何も聞かなくなりました。でも、私たちはダメでした。私の体は彼にとって痛いものでしかなかったのです。「ごめん」と言われて、彼は裸のまま、PCを開けて仕事をし始めました。「時間まで仕事をするから、先にでてもらってもいい?」私は、大人しく服を着て、その部屋の扉から何も言わず出て行きました。

今までの私なら、絶対に彼のような人を迂闊な理由で選ぶことはなかったでしょう。でも、その日は寂しかったのです。寂しさは体温で埋まると言う人もいますが、私は埋める事ができませんでした。もし、彼が満足していたとしても、そんな奥さんを持っている人との逢瀬はどうなのでしょう。

自分の中の妻だった小さな気持ちを、その時の私はまだ持っていました。

心を満たしてくれる人とだけ会いたいとその時とても願ったのです。彼らと知らない人は別物なのです。どちらも偽物の関係だとしても、嘘をついていたとしても、彼らは私を傷つけないことだけは確かなのですから。おやすみなさい。

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