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みんないってしまう夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

山本文緒さんがいってしまいました。彼女の小説を私は時に恐れながら、時に微笑みながら胸に刻んでいったものです。

「みんないってしまう」は特に好きな小説でした。年老いた主人公が、ふと昔の友人に会うのです。そして、過去の思い出話をして、昔の知人たちに連絡をするとみんないってしまっていたのです。

「みんないってしまう」ことは悲しいのに、なぜかこの話の中では和やかで、その呪文を唱えればなんとでもなるような楽しい空気を出しているのです。「それはしょうがないことだよ」と優しく語りかけてくれます。

今、こうやって会っている彼らも、何十年か経てば、「いってしまっている」のかもしれないとよく思います。彼女たちが小説でするように、思い出して、連絡すれば彼はもう会えない人かもしれません。それは皆に平等です。

この逢瀬が、地獄に落ちるような恐ろしいものでも、私たちは「みんないってしまう」のです。プラナリアのように、分裂して、増殖することはなく、私たちは「いって」しまいます。

SFのように死なない世界もいずれ来ることでしょう。でも、今は「みんないってしまう」世界を楽しもうと思います。

彼女もいってしまいました。彼女は、いく前に誰かに連絡できたでしょうか?ご冥福をお祈りしながら、今日も彼女の書いた穏やかな世界の中で、私は自分を重ね合わせます。

いつかは「みんないってしまう」のだから、今は彼らを思い切り抱きしめようと思うのです。おやすみなさい。




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