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コーヒーだけが暖かい夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

その彼はお酒が飲めないと言いました。そこで私たちはオフィス街の真ん中、寒い寒い冬の夜、屋外席でコーヒーを飲むことにしたのです。近くの暖かな光のカフェはどこもいっぱいで、その屋外席のあるカフェだけが取り残されていたのです。

彼は帰国子女で英語が話せるとプロフィールに書いていました。私は、英語を勉強したい気持ちもあって彼をマッチングアプリで右スワイプしたのです。

メッセージのやり取りから、彼の目的は分かっていました。でも、限られた人としか話せない、たわいもなく、卑猥な話を楽しめる友人になれるかもという期待がありました。

彼は清潔でスマートな着こなしをするサラリーマンで、あんな卑猥なやり取りをしている人には到底見えませんでした。なので、私は素直に言ってしまったのです。

「アプリでやり取りしているような話をする人には見えませんね」

彼は慌てて、人差し指を口にあてました。

「こんな屋外でそんな事言ったらダメだよ」

さっきはあんなに慌てていたのに、暖かいコーヒーを口にした彼は饒舌でした。自分の経歴から、自分の体の形から、端的な欲望まで淀みない水のように話はじめました。

私は相槌を打ちながら、暖かいコーヒーと一緒にそれを聞いていました。彼の口から漏れる私への要望を、私は全て「いいですよ」で返していました。きっとそれは私の本心から漏れた「どうでもいいですよ」でした。

私たちは「また会いましょう」と次の約束もせずに別れました。それからお互いに連絡をとる事はありませんでした。

私たちはたとえ体を重ねても、素敵な友達になれないことを知ったのです。欲望だけでは進めない何かをお互いに持っていました。あの冬の30分、私たちから笑顔が溢れたのは、コーヒーを最初に飲んだ瞬間だけでした。

私は未だに英語が話せないので、今はオンライン英会話を頑張っています。今日も少しお話ししてから眠ります。おやすみなさい。










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