見出し画像

#2 『傷口から人生』

本日読み終えた一冊は小野美由紀さんの『傷口から人生。―メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった―』です。

著者自身は高学歴で、TOEICも高得点、インターンもバリバリこなしていて私レベルからしたら高スペック大学生。
だけど、敷かれたレールの通りに就活してみたものの上手くいかない、自分が何者で何がしたいのかわからない、モラトリアム期のモヤモヤと葛藤を抱いたまま動き続けたため心と体は悲鳴をあげはじめ・・・。
著者の背景にある家庭環境や家族関係のこと、内に秘めた感情の渦が上手く吐き出せなかった学生時代のこと、センシティブな内容も不穏な状況もどこか脆くて儚くて、それでいて美しい言葉で表現されている部分があって、一気に読んでしまったエッセイでした。

この本を読み終えて感じたこと。
それは「果てして私たちは傷一つ作らずして人生を歩めるだろうか、いや無理だな」ということです。
生きていると嫌なことも、辛いことも、上手くいかないこともたくさんあります。こうした負の出来事にどうやって向き合っていくか、折り合いをつけていくのか。
人間の体は傷ができたときに、かさぶたができて修復していきますが、人生もそれと同じで、傷ついてもその傷を治そうと思う気力があれば再生することができるんですね。
ただ、難しいことに傷には程度っていうものがって、かすり傷くらいなら誰かに愚痴るとか、大声で歌うとか、普段のストレス発散方法で対処できるのですが、自分で思っていた以上に深い傷があったりもする。
そういうときはとことこん過去に遡って時間をかけて、手間暇かけて治療に専念しなければならない。
そういう立ち止まる、っていうことがなかなかハードル高いんですよね。
社会から、周りの人から取り残されて、置いてきぼりになる恐怖と焦りが生まれてしまうのだと思います。

私も自分の人生がどうなっていくのか、全くと言っていいほど想像できていません。自分が何者で、何がしたいのか、全然わかっていないけど、自分が生きた証みたいなものが欲しいし、自分は特別な人間の1人なんだと思いたい。やっぱり生きていると欲が生まれて、自分では満たせない何かを埋めるように周囲の承認や賞賛を必要とするときもある。

こういう自分の中の迷いとか不安、欲望を卑しくて醜いものだと判断して、自己嫌悪や自己否定に繋げないで、とささやいてくれる優しさがこの本にはあるな、と感じました。
それは生きていれば普通に湧き上がる感情かもしれないし、もしかすると心のSOSなのかもしれない。
そういうのをじっくり、ゆっくり向き合っていくのもいいんじゃない、そう教えてくれるあたたかさのある本でもあります。

なんだか生きずらい、でもどうしたらいいのかわからない、なんとなくモヤモヤしている、そういう方におすすめの一作です。

390


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?