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2021東京大学入試問題二次試験 化学 第3問解答解説

2021東京大学入試問題 化学 第3問の解答解説です。内容は極端に難しいわけではないですが,読んで理解するスピードや計算量がなかなかあるので,時間内に全部終わらせようとすると少し大変かもしれません。


資料

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I モール法

2021東京大大問2

リード文の対照実験は流れがわかっていないと読みにくいが,ぶっちゃけよくわかっていなくても数値が出てきているので何とかなる。

Ag₂CrO₄が出てきたところが当量点だが,濁りでよく見えない分少し多くAgNO₃を使ってしまうはず。その「濁った状態で当量点~やっと褐色が見えるようになった」までに使った分のAgNO₃が後半④でわかる。これを②の量から引くと,ちょうど「よく見えないけどAgClが沈殿しきった点=当量点」がわかるということ。(そこ自体を問題にしないのが東大,という感じではある)

ア は簡単。当然AgOHではないので注意。

イ は,正誤問題。(1)が,リード文の流れがわかっていないと選べない。

(2)は,ハロゲン化銀の性質として押さえておきたい。AgFではFの電気陰性度が極端に大きいため,イオン結合性が大きくなり水溶性になる。

(3)でも,AgとClの電気陰性度の差は小さく共有結合性が大きくなるため水に溶けにくくなる。

(4)はサービス。濃アンモニア水なら錯イオンになるが…

(5)もサービス。クロムのイオンの変化は押さえておきたい。

2021東京大大問2_001

ウ 当量点でちょうど溶解平衡と考えればKsp₂が使える。ただし,16mL増えているというのを初歩的ミスしそうなので気をつけよう。また,濃度がすぐ出るが,求めたいのは物質量であることにも注意しよう。

エ xとか置けばCl⁻の物質量を表せるが,全部AgClになっているならそこに消費したAg⁺も同じ物質量である。で,Ag₂CrO₄がちょうど出てきたところなので,総Agは「AgClの分+ウのAg」ということになる。(前の問題が後ろに効いてくる,というのは難関大のパターン)あとはゴリ押し。

オ で,ウやエみたいになっているときもAgClがやっぱ溶解平衡だよね,という話になる。Ksp₁を使うことになる。[Ag⁺] はウで出しているので,あとは問題なくできそう。


II 結晶格子 水素吸蔵合金

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流行りの話題。基本的な格子は皆押さえているので,大体難関大ではちょっとひねったもので立体的な理解を問う傾向がある。水素吸蔵合金は今後の燃料電池車の普及などを見越して,他大学でもよく見かける問題だ。

カ は,それほど後半と関係ない肩慣らしの問題。確実にとりたい。

キ は立体的な理解が問われるが,図3-1と3-2をあわせると上記の図のようになることがわかるので,八面体の位置はとらえやすい。あとは,dAAとdBBの位置を間違えないように見れば大丈夫。まさか三平方の定理ができない人はここにはいないだろう。

一応,TiとFeが両方のパターンを確認しておく必要がある。例のように式変形後に処理してもいいし,ダイレクトにdAAとdBBを2パターン求めてもOK

2021東京大大問2_003

2021東京大大問2_004

ク では,キを踏まえての問題になる。まず,水素原子が空間に収まらないことには始まらないので,「より狭いほう=dBB」を吟味すればよい。そうすると,BがFeの場合にちょうど0.06nmの隙間,すなわち水素原子の半径の2倍になる。BがTiだと0.02nmしかなく,そもそも水素原子がうまく収まらない。狭いし…

ケ は,私がキで書いたような状況にたどり着けていれば「各面に2分の1個」がすぐにわかるのでサービス問題。

コ ここで六方が出てくる。しかも知っているヤツとちょっと違うので慎重に。親切にも面αとβで整理してくれているので,しっかり数えよう。切断されている様子を正確にとらえるのが大事。18個吸収,まではたどりつく。

で,吸蔵と体積は確かに序盤のカと少し関係あるが,計算量も多く問題としては別物。まずは六角柱の体積を出す。水素分子の吸蔵mol→水素「原子」の吸蔵mol→金属原子の個数→格子の個数→全部の格子の体積 という流れ。ほっとしたところで,立方nmとリットル(L)の変換が余計なひと手間。桁間違えそう…気を付けよう。


所感

計算量がなかなかに多くて,息切れしそう。リード文を一気に読んでからだと時間切れになるので,問題文とリード文を並行しながら読むくらいのスピード感は必要。前の問題が後半に効くので,正確に計算するのも当然必要。あわせて,Iの実験の感覚,IIの立体感覚など,かなり総合的にフル回転する必要があるかもしれない。極端に難しいわけではないが,しっかりと練習をしておかないと多数のミスを誘発して自滅しそうな,歯ごたえのあるいい問題だ。