息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話20
長男が倒れて7日目。
この日は夫が面会に行った。
脳波については、息子の症状には出ないものの、24時間で4〜5回、痙攣を疑われる動きがあるとのことだった。
それでも日に日に異常な脳波は減っているため、このまま快方に向かえば数日後には一般病棟へ移ることも視野に入れています、と言ってもらえるまでになった。
しかし、未だ経口での食事は出来ていない。
数日間全く飲食をしていない為、食事についても慎重に進める必要があった。
この日は胃へ直接繋げた管から、栄養剤を50cc流し込んだと伝えられた。
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帰宅した夫が聞かせてくれたのは、長男からのメッセージだった。
この日も私は手紙を書いて、それを録音し、持って行ってもらった。
そのお返事のように長男が私への言葉を話してくれたのだそうだ。
おそるおそる再生すると
「…ママ、だいすきだよ」
まだ掠れた声だが、はっきりと一言そう言ってくれていた。
喋り方も声も、幼さが残る長男。
そんな息子のこの一言を聞けたことが本当に嬉しかった。
倒れる前は毎日のようにお互いに言い合っていたこの言葉。
そんな日常の片鱗が見えた気がして、あたたかく胸を締め付けた。
まだまだ、分からないことも多い状況だ。
脳の炎症がどこまで後遺症を残すのか。
体力の衰えもあり、身体の動きはまだほとんど見れていない状況だった。
それでも、日々回復していることを実感し、家で待つ家族の生活にも笑顔が戻り始めた。
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長男が倒れてから8日目。
この日は私が面会に行かせてもらった。
PICUに入ると、脳波のコードが無くなっていて、医師がすぐに説明にきてくれた。
「長男くんの脳波は、未だ12時間に1度程度痙攣を疑われる波が出ています。
しかし、身体症状としては出ておらず、今後予定されている免疫療法のスケジュールを考えると出なくなっていくだろうと考えています。
ですので脳波の計測は一旦終了とし、本人の様子を目視する形で対処していくことになりました。」
ここまでの8日間、24時間常に脳波を計測していた為一度もシャンプーをすることが出来ていなかった。
看護師さんが色々と整えてくれて、
「お母さん、シャンプーしてあげてもらえますか?」
と言ってくれた。
点滴や心拍、二酸化炭素量などを計測するコードはまだ繋がっており、ベッドの上にビニールを敷いて行った。
温かなお湯を使って息子の頭をおそるおそる、気持ちをこめて優しく洗った。
「長男、気持ちいい…?」
と聞くと、
「うん…きもちいいよ。」
と目をつぶってリラックスした表情で答えてくれた。
そんな些細な会話だけれど、息子の柔らかな髪に触れ、頭からも感じ取れる体温にも感極まり、また涙が溢れてしまった。
脳波計測用のコードはズレやすく、糊のようなもので固定されていた。
その箇所をお湯を使って丁寧に溶かし、頭皮や髪の毛をくるくると洗う。
気持ち良さそうに目を細める長男を見て、本当に嬉しくなった。
「長男の頭洗えて、ママ幸せだなぁ。」
何も考えずにポロっとでた言葉だった。
「うん…ぼくもしあわせ。」
なんだかあたたかな、のんびりとした空気が流れていた。
長男が倒れてから、こんなに穏やかな気持ちで彼と向き合うことが出来たのはこのときがはじめてだったと思う。
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