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息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話25

『麻痺が残るかもしれない』

この言葉にショックを受けなかったとは正直言えない。

けれど、目が覚めなかった頃に感じていた不安に比べれば、目標が明確に思えた。

幸い会話に問題は無く、食事も取れるようになってきている。

顔面への麻痺は感じられなかったし、排泄も、ベッドの上ではあったが、オムツでは無く自分のタイミングできちんと出来ていた。

もちろん本人からすれば、今まで出来たことが突然できなくなるのだ。相当辛いだろう。

けれど、リハビリを頑張って慣れていくしか無いのであれば、私は長男を支え続けよう。

そう覚悟は決まっていた。

「そうですか…。丁寧に教えて頂きましてありがとうございます。

まずは衰えてしまっている筋力の回復が優先という感じでしょうか?

うまく歩けなかったのもショックだったのかな。

環境の変化への戸惑いもあるみたいで、さっきまで泣いていまして…」

私の言葉に主治医の先生は

「そりゃそうですよ」と笑った。

そして長男に向かい、

「長男くん、君の状況は大人でも大変なことなんだよ。

だからしんどかったり不安で当たり前だよ。泣きたかったらいっぱい泣いていいんだよ。

せっかくママがいるんだし、いっぱい甘えないと。

でもね、長男くんが頑張ったからここまで元気になってるよ。

もう少し、おうちには帰れないけれど、先生達と一緒に頑張ろうね!」

そうやって、明るく笑顔で長男を励ましてくれた。

泣いてもいい、甘えてもいい。

ただ励ますだけでは無く、弱い部分を見せるのは当たり前と伝えてくれた。

長男にとっても私にとっても本当に信頼出来る素敵な先生と出会えたのだと思った。

そしてわたしのほうをむいて少しいたずらっ子のような笑顔で、

「お母さんはこれからもっと大変だ、もう一踏ん張り、頑張っていきましょう」

と、言ってくれたのだった。

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その後、病棟の看護師さんが来てくれた。

まずは一番に付き添い入院は出来ないのかを聞いたが、やはり感染症対策の為に今は禁止、ということだった。

「面会禁止のところもありますが、面会は可能ですしね。申し訳無いけれど決まりですので。」

そう説明を受け、息子のためでもあるのだからと受け止めた。

しかし、PICUの頃に比べて、面会時間は少し延びた。

一日のうちの決まった時間内で3時間まで。

『面会出来るのは両親のみ』なのは変わらなかったが、トータル3時間以内であれば両親が入れ替わって面会をしても良いとのことだった。

少し長く一緒に居られることを伝えると長男にやっと笑顔が見られ、ホッとした。

また、用意するものについてもPICUとは違っていた。

TVやDVDプレーヤーは分単位の有料なので、安いポータブルDVDプレーヤーの購入を勧められた。

お風呂については、平日は両親が面会時間の中で沐浴室で入れるか、面会終了後に看護師さんが身体を拭くかシャワーで洗うとのことだった。

土日については人手が足りないのでお風呂は出来るだけ両親で行って欲しいと言われた。面会に来ていない場合は夕方に看護師さんが拭いてくれるとのことだった。

病棟内は暖房で暖かく、服装も半袖にして欲しいなど、細やかな指示があった。

入院していた病院はとても大きく、病棟もいくつかのエリアに分けられていたが、長男が入ったエリアは免疫力が下がる治療をした子や乳児がメインのエリアのようだった。

まだほとんど喋れない0〜1.5歳程の子が一つの部屋に集まって治療を受けていた。

全体で10部屋程度と思われる部屋数だが、個室は多く無く、子供達の泣く声が方々から聞こえてきた。

その状況をPICUと比べると多いとは言えない人数の看護師さんと、数人の巡回の保育士さんで対応しているようだった。

まだ小さな子が多く、面会時間も限られている。

その中で、他の子が親と過ごすのをみたら寂しくなってしまう気持ちは分かる。

看護師さんや保育士さんは都度笑顔で泣いている子の部屋へいき、楽しい遊びを提案したり、おしゃべりをしながら気を紛らわせてあげているようだった。

ここにいる子供達は、「患者」であり治療を必要としている。

その部分の大変さは想像していた。

けれど、入院をする状況というのは患者の心も弱っている。

医療の現場で働く人達は、その全てを受け止め治療をしてくれているのだ。

それをこのとき理解することができたのだと思う。

それは言葉でいうより遥かに大変なことだろう。

けれど、そこで働く人たちは笑顔を絶やさず、とてもパワフルに見えた。

私たち家族は、本当に様々な人に支えられている。

これから、少しずつ自分なりに返していかないといけないな、と感じた。

「これからよろしくお願い致します。」

説明をしてくれた担当の看護師さんや、ナースステーションの皆様に頭を下げて帰路についた。

帰るときにはまた長男は大声で泣き叫び、病棟を出てもしばらくその声が聞こえるほどだった。





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