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地元が好きじゃないバスケファンが、地元チームのバスケを見て泣いた話。〜2021.12.12 茨城vs島根 観戦記〜

私が地元、茨城県水戸市を離れてもうすぐ10年が経とうとしている。
正直、昔から地元が好きじゃない。だから、郷愁など感じることは全くなく、東京での生活を満喫している。
好きじゃない理由は単純。とにかく、おもしろくないのだ。
流行りの服屋はない、有名アーティストのライブもプロ野球もほとんど来ない。20時になれば駅前は予備校生しか歩いてない。「俺ら東京さ行くだ」ほどの田舎ではないから、のどかさにも欠ける、中途半端な地方都市。
だから東京からわりと近いのに、地元に帰るのは大体長期休みのときだけ。そんな生活が9年以上続いていた。

そんな私が珍しく年末の帰省の前に水戸に帰ることになったのは、茨城ロボッツvs島根スサノオマジックの試合があったからだ。
バスケを好きになって半年後の2021年5月、茨城ロボッツのB1昇格が決定した。それまでJ2の水戸ホーリーホックはあれど、トップカテゴリーのプロチームが存在しなかった水戸にB1所属のチームが生まれたことは喜ばしく、嬉しいことだった。だが、その嬉しさは「私の好きな選手たちが水戸に来るなんてすごい」というのが理由だった。実家近くのアダみとならホテルに泊まらなくていいから遠征費浮くし。
だから正直、茨城ロボッツには全く興味がなかった。今回試合を見に行ったのも、オリンピックにも出場した20-21シーズンMVP・金丸選手を見たかったからだ。

水戸駅を出ると駅員さんが作ったのだろう手作り感満載のウェルカムボードが飾ってあった。しかしイマイチ想像がついていなかった「Bリーグのスタープレイヤーが本当に地元に来ている」ということを実感するには十分で、思わず顔をほころばせながら写真を撮った。

初めて行くアダストリアみとアリーナは2019年にできたばかりというだけあってピカピカで、立派なアリーナだった。練習を眺めながら高まるテンションとともに金丸選手の登場を待っていると島根のロスターのアナウンスがされる。

あれ?
14番、いなくない??

慌てて島根の公式Twitterを見る。
体調不良でロスター外のお知らせ。

ショックで全身の力が抜けた。
金丸選手の体調も心配で、試合を見るテンションが落ちに落ちまくった。

試合は、金丸選手抜きの島根が茨城をボコボコにした。イージーミスでターンオーバーを重ねる茨城と圧倒的な個人技で点を重ねる島根の力差は歴然だった。
こんな大差のつく試合になるなら、金丸選手もいないし、正直、明日の試合、全然行きたくない。肩を落として帰路に着いた。

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しかし私は日曜日もすでにチケットをとっていた。しかも土曜日よりグレードの高い良席。
「実家のコタツで寝ていたい」という気持ちを抑え、しぶしぶ会場に向かった。

でも、日曜日の茨城は気合いが違った。
まずディフェンス面では、いけると思うや否やすぐダブルチームにいって簡単にボールを出させない。ルーズボールには積極的に飛び込んでいく。島根は明らかに茨城のハードなディフェンスに手を焼いていて、24秒バイオレーションを連発した。
そしてこの日の茨城はオフェンスもキレキレだった。前日34.9%だったFG%は55.0%までアップ。なんといってもキャプテン平尾選手のプレーが凄まじかった。毎試合30分を超えるプレータイムの中、疲労は必ずあるだろうに、それでも常にペイントにアタックして、最後は技ありのフローターやフックで魅せる姿は茨城の象徴そのものだった。
数ヶ月前、昇格決定試合後のインタビューをVTRで見たとき「この人、いくらなんでも泣きすぎだろ」と思ってごめんなさい。
ロボッツへの熱い思いがプレーを通して客席まで伝わって痺れまくりました。
生の平尾選手、めちゃくちゃかっこよかったです。

そしてこの日、もう1つ忘れられないのが茨城ブースターの応援だ。日曜日、2000人を超えたお客さんの中には、地元のバスケチームのお子さんとその保護者の方が多かったように見られた。その地元のバスケを愛する人達がみんな、割れんばかりのクラップを鳴り響かせている。クラップの音は、今まで生で観戦して聞いた中で1番大きかったかもしれない。
今ここにいる茨城県民がひとつになって、このかっこいいチームを応援している。地元でついぞ感じたことがなかったスポーツ会場特有の一体感を感じて、鳥肌が収まらなかった。

試合は第4Q、島根が意地を見せて接戦に持ち込む。
元々島根を応援するつもりで島根側のチケットを買っていたが、この時間帯になるともう完全に気持ちは茨城応援になっていた。あまり大っぴらに茨城を応援するのもなんなので、島根にも茨城にも拍手を送るよく分からない人になりながら、固唾を飲んで試合を見つめる。
残り21.3秒、同点に追いつかれた茨城は最後のタイムアウトを要求。ここで茨城がどんな作戦会議をしたか定かではないが、私は思った。
きっと平尾選手が打つだろう。

平尾選手がボールを運ぶ。時間を使い、残りクロックが2秒ほどになったとき、ジェイコブセン選手のスクリーンで一瞬フリーになった瞬間を逃さず打ったスリー。何度もチームを救った平尾選手のシュートだが、このときばかりはリングに当たって跳ね返った。延長か、と思ったのはつかの間、トラソリーニ選手がリバウンドに入りボールをティップした。試合終了のブザーが鳴り響く。ボールはリングに軽く触れたあと、そのまま通過した。
その瞬間、思わず禁止されている大声が出てしまった。
人生で初めて見た、ブザビでの決着。
ずっとおもしろくないと思っていた地元で、最高におもしろい試合を見せてくれたのは、地元・茨城の名前を背負って戦う、茨城ロボッツだった。

会場中から歓声が上がる中、涙が溢れた。
私の生まれ育った故郷に、最高のエンターテイメントを起こせるチームができていたことに、震えが止まらなかった。
あとで知ったのだが、今日の試合がアダストリアみとアリーナでのB1初勝利だったそうだ。
B2時代からチームを応援しているブースターは嬉しさもひとしおだろう。
本当におめでとうございます!

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ヒーローインタビューで、平尾選手が言っていた。

この先も、自分たちはまだまだ1勝1勝積みあげていけるように頑張りますので、応援よろしくお願いします。

劇的勝利に浮かれることのない、ハッキリとした口調。
このチームはきっと、もっと強くなれる。

たまたま見に来た試合で、目当ての選手は見られなかったのに、最高のゲームを見せてくれた茨城ロボッツ。しかも地元チーム。
これを縁と呼ばずになんと呼ぼうか。

水戸の誇るプロバスケットチーム、茨城ロボッツの歩む道のりから目が離せない日々が始まりそうだ。

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