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【花・植物空間】幸せにね

花屋の仕事は、花を売るだけではなかった。人の元へお嫁に行く子たちは、市場で仕入れされた後、水切りという名のご飯を揚げる。そして、ガラスの冷蔵庫で見栄え良く並べられる。毎日新鮮なご飯を食べさせるための水替えもする。

彼らの嫁入り支度という名の花束やアレンジ、ラッピング業務などもある。どれも彼らを素敵に演出するための花屋の仕事である。

どの仕事も未経験で新鮮だが、不慣れで時間がかかってしまう。今私の課題は、ミニブーケとミニアレンジ、そして、彼らのラッピングをすることだ。ラッピングもブーケ作りもアレンジも、したことがない上に正解なんかもあるわけない。しかし、ただ切り花を束ねてるわけではなかった。

なんと、そこには、思いもがけない、【ミニ宇宙】が存在していた。三角形を二つ重ねて星形を作る。その先端に主役となる子を位置付ける。その周りを脇役が埋め、またその周りを脇役が埋めていく。

例えて言うなら、太陽を中心に惑星が、惑星の周りを衛星が、それぞれ周回しているような感じなのだ。それを今、ミニコースで訓練中というわけだ。簡単なようでこれがまた難しい。

人間も姿形が違う。強い人もいれば弱い人もいる。目を引く大胆で豪快な人もいれば、素朴で繊細な人もいる。人間世界に沢山の個性があるように、彼らの世界でも同様のことが起こっている。

繊細な子、茎が弱い子、花が大ぶりで目立つ子、幾何学な模様の子、星の形をした子、水を吸い上げるのが下手な子、足腰が丈夫な子、しぶとい子、可憐な子、みんなそれぞれ個性を持っている。

我々が【人間】とまとめられるように、彼らも【花】とまとめられる。人間にグループができるように、彼らも束ねられる。花も植物も人間も同じだったのか!

植物は生きるエネルギーを光合成に求め、人間は呼吸に求める。でも、その呼吸で吸い上げる酸素も、元はといえば植物(樹木)が放出してくれている。

わたしたち人間世界でも、ある人がいるのといないのとで、その場の雰囲気が違ったり、見るものの感じ方が変ったりするだろう。でも、それは人間が持つ視覚により認識できるものではない。

花・植物に取り囲まれた空間も、目には見えない空間の違いが生まれてくる。その空間には、宇宙から放射される音や揺らぎ、目には見えないものが在る。

ミニブーケを2つ手にした男の子が、「これ、ください。」と近寄ってきた。私は、それらを袋に入れ、「大切にしてあげてね。」の言葉と共に手渡した。その子は、そっと雲を掴むように優しく花たちを受け取った。店を出て、袋の中を覗き込み、隣の母親へ話しかけていた。


「この子、可愛いね」


花のブーケを見て、可愛いって感じる小さな男の子。このご時世で世界の先も見通せない中、小さな存在から大きな安心感を貰った。

小さな背中を見送りながら、「幸せにね」と心の中で呟いた。彼の手元に行ったあの子たちは、きっと幸せに違いない。

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