石炭火力発電の「アップサイクル」?電源開発の進めている「GENESIS松島計画」をご存じですか?


「石炭火力」COP26を経てますます野心的な気候危機対策が求められるなか、国内で石炭火力の「アップサイクル」事業が進んでいることをご存じでしょうか?

COP26では最終的に、排出抑制対策を講じていない石炭火力発電について段階的な「廃止」から「削減」へと表現は弱められましたが、合意文書に「石炭」の制限に関する文言が盛り込まれたことは記憶に新しいかと思います。


日本の岸田首相はCOP26の世界リーダーズ・サミットでスピーチを行い、「化石火力を、アンモニア、水素などのゼロエミ火力に転換するため、1億ドル規模の先導的な事業を展開する」と強調しました。
現在まだ未確立の技術であるアンモニアや水素を混焼させて達成しようとする「ゼロエミッション火力」は、国際社会においては評価されていません。なぜならアンモニアや水素を生成する段階で化石燃料を使用し、CO2が排出されるから。
11月4日には、COP26において46ヵ国が石炭火力発電の廃止や新規建設停止に同意した一方で、日本は中国、インド、米国、オーストラリアなどとともに同意しませんでした。


このように日本が石炭火力発電からの脱却がみえないことにより、環境NGOから「化石賞」という「温暖化対策に消極的だった国に与える不名誉な賞」をCOP25に引き続き受賞しました。


「化石賞」日本の気候危機対策を象徴するかのような計画が「GENESIS松島計画」


そんななか、国内であらたな石炭火力発電所の問題が浮上しています。
それが、「GENESIS松島計画」です。


「GENESIS松島計画」とは?
長崎県西海市松島に電源開発株式会社(J-power)の所有する「松島火力発電所」があります。
松島は大正初期から昭和初期までは「炭鉱の島」でしたが、昭和9年の炭鉱大水没事故により、昭和13年に炭鉱は閉山。その後昭和56年に石炭火力発電所1号機が運転開始され、日本初の大規模輸入炭火力発電所としてもその名を歴史に刻み、「電力の島」になったという過去があります。

2020年10月に菅首相が「2050年カーボンニュートラルを実現する」ことを表明。2020年7月には経産省から発電方法の中でも最もCO2を排出する非効率石炭火力発電所の段階的な廃止が表明されました。

そしてこの松島火力発電所1号機、2号機も非効率であり、廃止の対象でした。



そこで出てきたのがこの「GENESIS松島計画」です。

電源開発は非効率である松島火力発電所の2号機に新たにガス化設備を付加し、高効率化させることでCO2をはじめとする環境負荷を低減させるとし、このことを「アップサイクル」と呼んでいます。

アップサイクルとは、従来から行なわれてきたリサイクル(再循環)とは異なり、単なる素材の原料化、その再利用ではなく、元の製品よりも次元・価値の高いモノを生み出すことですが……

しかしこの計画は本当にアップサイクルと言えるのでしょうか?

現在この計画は環境アセスメントの手続きの最中です。環境アセスメントの第一段階である「環境影響評価配慮書」から読み取れる問題点は以下の通りです。

「GENESIS松島計画」の問題点

問題点は大きく分けて4つあります。

①気候危機の緊急性に反している計画である
②既存設備のアップサイクルという表現は適切か
③大気汚染物質の排出量の多さが問題
④石炭火力発電所は座礁資産である

ひとつずつ説明していきます。


①気候危機の緊急性に反している計画である

この計画でガス化(高効率化)された松島石炭火力発電所は2026年より稼働が開始されます。一方で、気候危機を止める分岐点とされているのが2030年です。パリ協定の1.5℃目標に整合するには2030年までにCO2の大幅な削減が必要であり、もしそれが不可能な場合は1.5℃から2.0℃の間で不可逆的な反応が始まり、地球温暖化を止めることができなくなってしまいます。


この計画の環境影響評価配慮書にはガス化(高効率化)によりどのくらいのCO2が削減できるのかが明記されていません。計画段階配慮事項として選定しない理由に、アップサイクルにより効率の向上を図り、発電電力量当たりの二酸化炭素排出量を低減することをあげています。


電源開発がメディアに提示しているCO2削減量はおよそ10%。
発電方法の中で最もCO2を排出する石炭火力発電。その排出の10%を削減は気候危機対策になるのでしょうか?発電効率向上によって10%削減できるからといって、配慮事項として選定しない理由になるのでしょうか?
また、10%以上の削減は、バイオマス混焼、アンモニアや水素の混焼技術、CO2を地中に埋める技術であるCCUSを使用することによって実現させると示しています。
これらのアンモニアや水素混焼、CCUSの技術は現在実証段階であり、未確立です。また、一次エネルギー(化石燃料や再生可能エネルギー)を加工して作られる、アンモニアや水素のような二次エネルギーを用いることは、加工生成する段階でCO2が排出される問題が含まれます(再生可能エネルギーで生成することは現時点では困難であるため)。
何よりもこれらの技術が2030年までに実用可能であるか明言できない段階で、これらに頼った計画を推進することは、気候危機の緊急性に整合しません。


②既存設備のアップサイクルという表現は適切か

石炭火力は気候危機の最大の原因とも言われており、前述した通り、世界的にも脱石炭が急がれています。
火力発電所のガス化を「アップサイクル」と呼び「環境に優しいことをしている」という印象付けをすることは「グリーンウォッシュ(うわべだけ環境に配慮しているように見せかける)」と捉えられても仕方がありません。


また、今後、松島火力発電所と同様に非効率な石炭火力が延命される事例が起きうる可能性も否定できません。これは、気候危機をさらに加速させる原因になり得ます。


③大気汚染物質の排出量の多さ

環境影響評価配慮書では、大気汚染物質(硫⻩酸化物、窒素酸化物)は現在の松島火力発電所の設備より半減すると記載されています。
しかし、高効率石炭火力として建設中の神戸発電所の環境影響評価書と比較したところ、排出量の差(硫⻩酸化物:9.23倍、窒素酸化物:8.5倍、ばいじん:10倍)は歴然です。
(新設の高効率の石炭火力発電所であっても天然ガス発電の約2倍CO2を排出することは問題のため肯定する意図ではありません)

非効率の石炭火力をアップサイクルするのであれば、大気汚染物質の対処もしていかなければいけないのでないでしょうか?

④石炭火力発電は座礁資産である

世界の潮流はESG投資が主流となっており、気候危機対策が遅れている場合ダイベストメント(投資撤退)の対象になり得ます。実際に2021年6月7日には、電源開発はAIGCC(気候変動のためのアジア投資家グループ)からCO2削減要請が送られました。

理由としては「温室効果ガスを大量に排出していること、大規模な石炭火力施設を持つこと、パリ協定1.5℃目標を達成する上で、戦略的な役割を担っていること」

そして国際エネルギー機関(IEA)の発表したネットゼロ2050の移行シナリオを参照するよう要求されました。電源開発はその要求に対し、「水素利用を促進しており、2017年から2019年のレベルと比較して2030年までにCO2排出量を40%削減するという暫定目標を設定した」と述べています。
しかし、IEAの発表したネットゼロ2050のシナリオは、「2030年までに石炭火力発電を段階的に廃止する」ように求めています。
この事例をみても、石炭火力発電施設を持つ企業に対し、今後ますますダイベストメントの動きは活発になることが明らかです。


追加で1点!

電源開発は9月29日から10月29日の間、この環境影響評価配慮書に対する意見を市民意見を募集しました。しかし、その応募方法は「郵送」のみ。
オンラインで集める方法も選べる中で、市民からの意見を広く集めにくい方法をあえてとってしまっている点も問題点と言えます。


私たちは、この環境影響評価配慮書の意見募集に多くの市民の声を集めよう!と動き出しました。
気候訴訟JAPAN、気候ネットワークと協力し、HPやオンラインで意見を提出できるよう代行フォームを作成しました。


そして、この計画が進められている長崎県西海市松島へ直接足を運びました。
現地の方たちはこの計画をどのように捉えているのか?

また、西海市は「2050年ゼロカーボンシティ」へチャレンジすることを表明していますが、この「GENESIS松島計画」とどのように整合させるつもりなのか?
実際に西海市西海市役所の方、長崎県庁の方とお話をし、この問題を広く長崎県のみなさんに知っていただきたいという想いで、記者会見も行いました。

そこから感じた想いは、「松島石炭火力のことを安易にNOと言ってしまうと松島にとっても、日本の気候危機対策にとっても分断が発生し、うまくいくものもうまくいかなくなるかもしれない。長崎の現状をしっかり把握した上で、この問題に取り組みたい。」ということ。
例えばそこで働いている人の公正な移行の問題であったり、心からこの計画が地元のためになると思って動いている人たちに気候危機の緊急性をどう伝えるかだったり。

西海市のゼロカーボンシティ宣言には、“「江島沖洋上風力発電の促進区域指定」への取り組みや「松島火力発電所の高効率発電システムへの転換」”と記載があります。
つまり、今回の松島石炭火力発電所の“アップサイクル”も含めたゼロカーボンシティです。
気候非常事態宣言と日本で加速するゼロカーボンシティ宣言、両者は似ているようで実際のニュアンスは大きく違うということが分かります。

現地に行って改めて、地域の人たちとのコミュニケーションを重ねることの重要さを感じ、企業に対しても同様に、対話をしていきたいとますます思うきっかけとなりました。

今後も丁寧に活動を行ってまいりますので、ご期待くださいませ!

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