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“一人の権利は全員の権利”のはずなのに 映画「それでも夜は明ける」 #341

「黒人奴隷」というと、鎖につながれて船に乗せられる姿や、鞭で打たれる絶望的に悲惨な生活が浮かびます。

スティーヴ・マックイーン監督の映画「それでも夜は明ける」の印象が強いせいかもしれない。自由黒人でヴァイオリニストだったソロモンは、白人にだまされ、奴隷として売られてしまいます。12年間にも及ぶ奴隷生活。その実話を映画化したものです。

1807年、奴隷貿易が禁止され、奴隷の市場価値にも変化が起こります。「市場価値」。そう。彼らは「資産」として管理され、時には拉致されて南部に売られてしまうということもあったのです。

<あらすじ>
1841年。ニューヨーク州サラトガで、ヴァイオリニストとして家族と暮らすソロモンは、サーカスの楽団に誘われます。高額の報酬が受け取れるとあって参加を決めるソロモン。打ち上げの食事の席でクスリを盛られ、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまいます。容赦ない暴力に苦しめられながらも、知恵を働かせるソロモンでしたが……。

スティーヴ・マックイーン監督との共演を望んでいたブラッド・ピットの会社プランBが製作を請け負い、完成させたこの映画。第86回のアカデミー賞で作品賞を受賞しています。

これを受けてサミュエル・L・ジャクソンは、「もし、アフリカ系アメリカ人の監督が本作を監督したいといっても、アメリカの負の歴史を描くことにスタジオが難色を示すだろう」と語ったのだとか。

昨日ご紹介した「カラーパープル」も、監督はユダヤ人のスピルバーグです。非黒人のビッグネームが監督をするか、白人を主演にするかでないと、興行が成り立たないということなのでしょうね。

実際、ソロモンの生活は「悲惨」のひと言で、何度も目を逸らしてしまいました。

なぜ人間が、同じ人間に対して、ここまで残虐になれるのだろうと感じてしまうのですよね。

でも、どん底の恐怖生活に落とされても、ソロモンはエレガントさを失いません。知恵を絞り、効率のよい仕事の仕方を提案したりしています。それが監督官の不興を買い、さらなる地獄へと送られてしまうのですが。

映画の中で、奴隷主や監督官がキレ出すと、奴隷たちは一斉に下を向くか、視線を背けます。ソロモンがリンチに遭っていても、みんな見て見ぬふり。

「感じないようにする」

それが、奴隷生活を生き抜く知恵だったのかもしれません。

ソロモンは、技術者として館にやって来たブラッド・ピット演じるバスに、恐る恐る助けを求めます。

奴隷制廃止論者であるバスのセリフに、こんなものがあります。

法律は変わるが、普遍の真理は変わらない。そこに明白で簡単な事実がある。
“一人の権利は全員の権利”
白も黒も平等さ。

この言葉、いまのアメリカに生きているのだろうか。

1853年に自伝を出版したソロモンは、奴隷の現実を知らない人々に、恐怖の日々を伝える活動をしていたそうです。逃亡を助ける組織「地下鉄道」の支援もしていたのだとか。

その「地下鉄道」の案内人で、「モーゼ」と呼ばれていたのがハリエット・タブマンという女性です。彼女の映画は現在公開中。合わせて観るのがおすすめです。


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