頼まない

動乱期のリーダーとは 『石坂泰三の世界 もう、きみには頼まない』 #196

「もう、きみには頼まない」

こんな啖呵、一度くらい言ってみたいですよね……? え、わたしだけ? 本当に言っちゃった人がいます。石坂泰三という財界人です。

1886年に生まれ、逓信省に勤めた後、第一生命と東芝の社長を歴任。経団連会長のときには“日本の陰の総理”と呼ばれたそう。信念を持って政界と財界に健全な距離をつくろうと奮闘した、規格外の人物です。

ビジネスパーソンにおすすめの経済小説シリーズ4冊目は、石坂泰三の生涯を描いた城山三郎さんの小説『石坂泰三の世界 もう、きみには頼まない』をご紹介します。

この本、タイトルがドキッとするんですよね。

「もう、きみには頼まない」

石坂が誰に向かって言ったかというと、時の総理に向かってです!!(大蔵大臣にも言ってます)

石坂という人はペロリとそんなことを言えてしまうくらい気骨があり、大局観を持っていたそうです。組織の中で立場が上がれば上がるほど、「大局を見よ」と言われますが、そもそも「大局」ってなに?

日本国語大辞典によると、

① 全体を広く見渡したときの、物事のなりゆき。
② 囲碁や将棋で、盤面全体から見た勝負の形勢。

とのこと。囲碁から来た言葉といわれると、ちょっとイメージができる気がします。一手二手のことではなく、もっと大づかみにした局面のこと、なんですね。

現状の悩みや迷い、ひとつひとつの「現象」ではなく根っこを探ってみると、自分が大切にしたいと思っていることが見えてきます。そこに至る道を多角的・複眼的に思い浮かべたとき。最適な道はどれか。最悪な道はどれか。

大局をみることに長けていた石坂は、日本の進むべき「よりよい道」がイメージできていたからこそ、覚悟を決めることができたのかもしれません。振り返って、いまの政治家、官僚、財界人はどうでしょう?と思わずにいられない。

大局観は経営者にだけ必要な能力ではありません。新人のころから俯瞰して多面的に物事を見る習慣をつけておくと、小さなことで落ち込むこともなくなります。「次、いこう!」と思えるから。

官僚出身でありながら、肝が太い。民間企業の経営者だけど愛妻家で庶民的。石坂はアンバランスなバランスがとてもチャーミングな人物です。戦中・戦後という動乱期のリーダーともいえますが、見通しがきかないいまの時代だからこそ、彼のようなものの見方を活かせるんだと思います。


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